第309話 庇い、助け、守り!


 煙と熱風で息ができない。口元を押さえつつ辺りを見回すと、炎の中に丸くなって倒れているカリンを見つけた。背中には燃える麦藁むぎわらが降り積もっていた。


 俺はそれを払いけると、彼女の身を起こしてやる。彼女は身体を丸くして、その身体からだの下にカールをかばっていた。


「カリン!」


「……」


 苦しげなうめきが漏れる。

 良かった、まだ生きている。

 カールも気を失っているようだ。


 俺は喉が焼けるのも構わず叫んだ。


「ここだ!ここにいる!」




 ほどなく大量の水がかけられて、俺達三人は救助された。とはいえ、少し無理をしたせいで煙を吸った為、さっきからゲホゲホむせている。


「ヒロキ様、大丈夫ですか?」


「カリンのお父さん……二人は無事ですか……?」


「ええ、奇跡のようです」


 それを聞いてようやく安心し、俺は手渡された布ですすけた顔をいた。


 同じように、少し離れたところでカリンも地面に座って顔をぬぐっていた。綺麗な髪が焼け焦げて台無しだ。でも、彼女はそんな事気にしないだろう。大事な従兄弟いとこの命を守ったのだから。


「カリン」


「あっ、ヒロキ……助けてくれてありがとうございます」


 カリンはペコリと頭を下げた。


「何言ってんだよ。カリンこそ、カールを助けてくれてありがとう」


 そのカールも真っ黒に煤けた顔をいていた。彼が助けた二人——エレミアとコリンに泣きながら抱きつかれている。


 その様子を見て、俺とカリンは目を合わせて微笑ほほえんだ。


「それにしても——あの炎の中で、俺とカールの服は結構焼け焦げたけど、カリンの服は平気そうだな」


 意外と丈夫なのか、炎の中にいた割には燃えてないようだ。


「あっ、それはきっとこの布のせいです。ほらこれ」


 カリンは少しだけ、青いスカートのすそをめくった。白い膝頭がチラッと目に入る。


 ふぉ?

 ちょ、まって、心構えが出来てない。


 慌てる俺を気にも留めず、彼女はスカートの端を折って指差した。


「ここに絵が描いてあります」


「へ?」




 つづく

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