第282話 巨大黒狼、現る!

 他の黒狼とは格段に違う。


 ズシャリ、と大地をけがすような音を立てて、踏み出してきた個体があった。


 口から吐き出す息は燐光を帯びて怪しく光り、真っ黒な闇を狼の形に切り取ったようにしか見えない巨躯きょくが前に出てくる。


 黒狼のデカい奴だ。


 それも一頭ではない。


 驚いて後退りする俺達に、下卑た笑い声が聞こえてきた。


『クヒャヒャヒャ!お前らのおかげで黒狼も進化したもんだ!——おい、調子に乗ってる騎士様達に挨拶してきな』


 そう言ってカシラが右手を振ると、それに合わせて馬みたいに大きな黒狼が数頭、動き出した。


 前線に出ていた槍部隊を狙って走り出す。


 ジークさんもすかさず指示を出す。


 槍を構えて横並びに隊列を組み、真っ向から黒狼に挑むつもりだ。


「我々も少し下がりましょう」


 護衛の騎士さん達が俺を促す。


 確かにジークさんの放つ矢が無ければ、俺達は孤立無縁になる。


 ……いや、むしろ巨大黒狼の背後につけば、いいんじゃないか?


「奴らの背後を取ろう」


「近づきすぎては危険ではないか?」


 移動しながら、ユリウスが懸念する。


 ……それももっともだ。


「俺だけ行ってくるよ。ユリウスは皆を連れて丘の近くへ戻っててくれ」


 俺には勝算があった。


 槍部隊と巨大黒狼の群れがぶつかる時、ジークさんが矢を放つだろう。そこで一気に大量の浄化をしようと目論んだのだ。


 気遣わしげなカリンの空色の瞳と目が合う。


「大丈夫、騎士さん達がついてるから」


 俺がそう言うと、カリンはうなずいた。ユリウス達と皆が退くのを見て、俺が進もうとすると、護衛の騎士さんから、


「お乗りください」


 と、手を差し伸べられた。後ろに乗れと言うのだろう。


 確かにその方が移動が速い。


 迷わず乗せてもらう。騎馬の上はとても見晴らしがいい。巨大黒狼達の背後がガラ空きなのが、よく見えた。


「奴らの後ろへ回り込んでください。挟み撃ちにしましょう」


「心得ました!」


 騎馬が速度を上げる。


 目の前では槍部隊と巨大黒狼が、今まさにぶつかり合おうとしていた。




 つづく

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