第280話 弓の名手に魔力の矢を!



「デルトガさんの様子はどうだった?」


 俺が尋ねるとカールは眉をひそめた。


「大丈夫だと思うけど、やっぱりひどそうだったよ。今は眠ってる」


 止血して、強めの酒を飲ませて寝かせたらしい。奥さんのデボネアさんがつきっきりで看病しているので、二人に代わって娘のドロテアさんが村人の指揮をとっているらしい。(ドルフのお姉さんで、男勝りの女傑だ。旦那さんを亡くした未亡人である)


 とりあえず、村の方は一旦落ち着いたらしい。俺達は丘へ戻った。


 ユリウスがジークさんにいろいろ報告している間に、俺は部屋の戸口に飾ってあった『銀の匙』を外してポケットに入れた。


 カリンの思いの詰まっているコレは俺だけの御守りだ。


 俺は何やら怒られているユリウスの所へ戻った。


籠手こてを失うとは、何をしておるのか!」


「いえ、それは……」


 俺をかばってくれた時の事じゃないか。


「ジークさん、ユリウスは俺を助けるために籠手こてを潰されたんです」


 ジークさんは片眉を上げて、今度は俺を睨む。俺とユリウスを見て短く嘆息したあと、「荷車に予備がある」とユリウスを走らせた。


「まったく……。騎馬うまおびえてしまったらしいな」


 そういえばヴァイスベルがいない。ユリウスが村に置いて来たのだろう。


 それはさて置き、俺はエレミアから渡された魔力の矢をジークさんに渡して、その力を説明する。


「ジークさん、黒狼の群れで特に奴らが密集しているところに撃ちこんで下さい。光の輪が広がれば、その中にいた黒狼は浄化されます」


「あえて大地を射よと申すか。よかろう。しかしその後はどうするのだ?黒い霧が抜け出ても、再び集まってしまうのだろう?」


「俺が——俺達五人が黒い霧を消滅させます」


 俺は銀のナイフを。

 カリン、カール、エレミア、ユリウスにはまだ使っていない銀の矢を——それぞれ持って、黒狼の身体から追い出された霧を浄化しに行くのだ。


「くれぐれも気をつけるのだぞ」


 ジークさんはそう言いながらも心配してくれて、村に行かせた騎士二名を呼び戻して俺達の護衛にした。


 そしてその騎士の代わりにダズンが村の前に陣取って門番をする。ボロも水鉄砲を抱えて、土壁の上に身を乗り出していた。


「では、行くぞ!槍部隊、左翼と右翼、入れ替われ!」


 無傷の左翼部隊が、戦場を駆けていた右翼部隊と入れ替わる。この間に彼らは休息を取るのだろう。


 そしてジークさん自ら前へ出る。


「槍部隊、黒狼を追い込め!奴らを私の元へ連れてくるがいい!」




 つづく

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