第272話 一難去って、また一難!

 俺とカリンは結界の穴の真下に来た。ここの土壁に紋章のタイルがあったのだろう。


 薄い膜のような結界が青く波打っているのが見える。穴のふちが一番青く輝いていた。


「ヒロキ!ここに四角い跡があります」


「そこだな」


 紋章のタイルが埋め込まれていた場所に間違いない。


 俺はカリンから受け取った銀のツバメを、その場所にグッと押し付けた。


 不思議なことに、乾いた土壁なのに銀のツバメがすうっと埋め込まれたのだった。


 俺が手を離すと、銀のツバメは淡い輝きを発した。始めは弱々しく、けれど次第に青味を帯びた光に変わり、真上にその光を投げかけた。


 立ち昇る青い光は、結界の薄い膜に融合し、見事に穴を塞いだ。


「やった!」


「元に戻りましたね!」


 カリンと二人で手を合わせて喜び合う。


 そこへうらやましそうな声が投げかけられて来た。見ればジト目の騎士がこちらを見ている。


「一旦、村に引き返さないか?」


「ユリウス!ごめんごめん、一時避難だ……?」


 なんだあれは?

 俺の目に、丘へ向かう一頭の牡鹿おじかが見えた。ソイツはあっという間に丘へ到達し、あろうことか丘の結界の外から地面を蹄で削り始めた。


「何してるんだ?」


「……まさか、『丘』そのものを削っているのでは……?」


 カリンが怯えた目でこちらを見た。彼女の言う通りなら、丘が削られれば削られた分だけ、結界がせばまる可能性がある。


「くっそー!休む暇もないか⁈」


「ダズンさん、私達と丘へ戻って下さい!」


「うぉう!」


 三人で駆け出す。


「ユリウスは村を頼む!」


「……承知した」


 ユリウスはカリンと来たそうな顔をしたが、村にも女子達がいることを思い返したのだろう、剣で牡鹿達を牽制けんせいしながら村の入り口へと向かった。


 俺とカリンは、ダズンに守られながら丘へと急ぐ。走りながら、俺はポケットの中の『銀の匙』をカリンに渡した。


「カリンは今、御守おまもり持ってないだろ?これ持ってて!」


「ヒロキはどうするんですか?」


「俺の分は部屋の前に飾ってある!」


 そう、俺に勇気をくれた——カリンが探して俺に渡してくれた『銀の匙』はそこにある。俺が持つなら、アレが一番の御守りになる。


 カリンはツバメのチャームに使っていた紐を、すばやく『銀の匙』の飾り穴に通して、自分の首から下げた。





 つづく

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