第250話 篝火の用意を!

 夕暮れ近くに奴らがやって来ると、ユリウスは言う。


「???」


「お前、今日の戦がどれくらい時間がかかると思う?」


「えっ?……いや、どうやって終わるのかもわかんないよ」


「そうだな。奴らを殲滅せんめつするか、こちらが逃げるか、はたまたあいつらがあきらめるまで立てこももるか……それはわからん。だが奴らが夕暮れ時にここに来るということは——」


 ということは?


「この前とは違って、暗がりの中で戦う事になるかもしれないという事だ」


「ああっ、そうか!夜の戦いになるかもしれないんだ⁈」


 ユリウスは「やっと分かったか、馬鹿め」という顔してこちらを見ている。


 だがそれどころではない。陽が落ちてしまったら、外灯あかりの無いこの世界ではほぼ何も見えないじゃないか!


「小一時間で終わる戦いじゃないよなぁ」


 明かりが必要だ。

 とにかく村に知らせに行かなくては。

 焦る俺の横で、ユリウスがサッとマントをなびかせた。


「私が行って知らせてこよう。ついでに食べ物も頂いて来る」


 ……ついでにマリーとリーゼとシャノンと……に、挨拶して来るんだろう。


「なっ、なぜわかる⁈」


「いやぁ、だいぶユリウスの事がわかってきたよ」


「……行ってくる」





 さて、丘の方も明かりの準備をしておかなくては。


 普段は俺の部屋の電灯の明かりで間に合っていた。基本的に夜は寝てしまうので、カリンの小屋にはランプすらない。(村でも同じだ。村長の家にランプと蝋燭がある)


 俺は延長コードを増やして繋ぎ、勉強机の電気スタンドを外して持ち出した。作業台までコードを延長して電気スタンドを設置する。天板に挟むタイプのやつだからグラグラしなくて安定感がある。


 試しにスイッチセンサーに触れると、パッと白い明かりがついた。カリンがトトトと寄って来る。


「ヒロキ、『でんき』ですね?」


「うん。戦いが夜に入るかもしれないから、準備をしておこうと思ってさ」


「そういえば……以前に戦った時は陽のあるうちでしたね。あとはせいぜい夕方の大鴉くらいでしょうか」


「本気出してきたのかもな。暗いのはこちらには不利だ。魔物はそんな事ないだろうけど」


「今までも晴天に来たわけではないですよ。ほら、黒雲とともにやって来ていましたから、暗い方が得意なのではありませんか?」


「ああ、そうか。魔物だから光が苦手なのかも」


 光の強い懐中電灯でも有れば、目眩めくらまししくらいにはなるかもしれないが、あいにく俺の部屋には備えてなかった。


 冬の陽は傾くのが早い。

 まだ三時なのに、早くもオレンジ色の陽の色を感じる。


「今のうちに、誰か町に知らせに行った方がいいかな?」





 つづく

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