第221話 俺を優しいと君は言ってくれるだろうか!
俺が射たのは1羽の大鴉の羽であった。矢が刺さったまま、くるくると回りながら奴は地に堕ちた。
「ヒロキ様、やったー!」
見ていた幾人かの村人達も喜びの声を上げる。俺はその声を背に受けながら、土壁から飛び降りた。
堕ちた大鴉はそのまま飛べないながらに威嚇の声を上げている。俺が駆け寄るのと同時にカリン、ユリウスもそこへやって来た。
「ヒロキ、すごいです!」
「あ、ありがとう……」
まだ倒してないけど。
胸がドキドキして弓を持つ手が震える。その横でユリウスが長剣を構えた。両手で逆手に持ち、切っ先を大鴉に向けた。
「ユリウス、待ってくれ」
俺はユリウスを制すると、カリンの持つ水鉄砲を受け取った。まだ銀聖水がたくさん入っている。
「また、アレか?」
ユリウスが剣を引いて嘆息する。それでも手伝ってくれるみたいなので、少々感謝の気持ちが湧いてくる。
ユリウスは剣を鞘に納めたまま、その先で大鴉の矢のない方の羽をグッと押さえた。大鴉は暴れて口を大きく開く——。
そこへ俺が銀聖水を注ぎ込んだ。
ゴボゴボと音がして、大鴉が暴れる。俺も空いている片手で奴を押さえ込む。
——ギャッ、ギャッ!
少し苦しいだろうけど、ごめんよ。
もう一度、銀聖水を口へ入れてやる。
溺れるみたいな苦しみ方をして——それからモヤモヤと黒い霧が大鴉の身体から離れ出す。
「カリン、ツバメの御守りを!」
「はいっ!」
カリンの御守りで黒い霧を祓い、浄化する。大鴉は見る間に普通の大きさのカラスになる。
どうやらカラスは気を失っているらしい。今のうちにと羽に刺さった矢を抜いてやる。
——ギャア、ギャア!
残りの2羽が上空を旋回して、がなりながら鬼門の方角へと退散してゆく。
とりあえず今日のところは追い払う事は出来たようだ。
俺はのびたままのカラスを両手で抱き上げる。そこまでは良いけど、これからどうしよう?
そこへカリンが助け舟を出してくれた。
「羽の手当てをしてあげましょう」
「うん」
「助けたからといって、味方になるとは思えんが」
ユリウスは俺のやり方には異論があるようだ。
「仲間にならなくても、普通のカラスに戻れたんなら飛べるようにしてやりたいじゃないか」
俺が苦笑いしながら言うと、ユリウスはそっぽを向いてしまった。
「お前の弓の腕が下手だから、こんなことが出来るんだぞ」
そうか。ジークさんなら一撃で撃ち落としてしまうから、この浄化方法は出来ないか。
俺達は丘の上の作業台で、傷つけてしまったカラスの手当てをしてやった。しばらくするとカラスは気が付き、バサバサと羽ばたいたが、片羽が傷ついているので上手く飛べず、歩いて逃げようとした。
「ほら」
俺はその目先に増殖させた菓子パンをちぎって投げてやる。食べ物とわかったカラスはすかさず食い付く。
「ほら、大丈夫か?」
次々と投げてやると俺達に敵意がないと見たか、食べ物をねだるように首を傾げる
「ほら、しばらくこの丘にいていいぞ」
俺の言葉が解るのか、奴は大人しくカリンの小屋の影に身を寄せた。
「良かった。普通のカラスに戻ったみたいですね」
「うん、良かったな……あれ?」
村の方から数人の人達がやって来た。荷物を背負っている。どうやら
俺はカリンとユリウスと皆で丘を降りた。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます