第220話 大鴉との戦い!

 北の山から黒い影が飛来する。


 ジークさんが留守の間に大鴉がやって来た。俺は弓を取りに丘へ走る。ユリウスがその間に牽制してくれる。


「武器は常に身に付けておけ!」


 くっそー!

 そればかりはユリウスの言う通りだ。


 丘に駆け上がると、カリンが俺に弓矢を手渡し強くうなずいた。


「うん、頑張るよ」


 俺は弓に矢をつがえて振り向く。これはジークさんにアドバイスをされたからだ。彼女が言うには高い所から射れば飛距離が出るとのことだった。


 だからもし大鴉が来たら、丘か村の土壁の上に上がるよう言われたのだ。


 丘は高さがあるが、目標までの距離が遠い。更に飛距離を稼ぐために上向きに構え直した。


(間違ってもユリウスに当たりませんように)


 まずは威嚇だ。

 大鴉に当たらなくたって奴らをおどかせれば良い。


 俺は弓を引き絞ると矢を放つ。


 相変わらず頼りなげだが風に乗ったのか村の近くに居る大鴉のうちの1羽を掠めた。


 掠めて——ユリウスの足元の地面に刺さった。


 彼はこちらを向くと剣を振り回して怒っている。(遠くて声が聞こえなくてよかった)


「やっぱり無理があるかな。近くまで行ってみる」


「私もこれで参ります」


 カリンも例の如く加圧式水鉄砲を抱えた。2人で近くまで駆け寄ると、ユリウスが鬼みたいな顔で振り返る。


「わざとじゃないんだって」


「いや、悪意を感じた!」


 そんな俺たちを見て、大鴉達がギャアギャア笑う。


 ——ムラハ、ホロビル!


 ——コドモハ、イナイカ?


 ——ナラバ、ワカイムスメヲクッテヤル!


 その台詞にユリウスが反応する。


「悪き者共め!若い女性は渡さん!」


 うわぁ。

 カリンがひいてる。


 しかしそれには気づかず、ユリウスは剣を振るって跳躍する。今のうちにと俺は門の内側から梯子を登って、村の土壁に上がる。此処は水鉄砲のシューター部隊が足がかりにしていた場所で、ちゃんと足場が組んである。


 門番のクルトさん——カリンのお父さんも自前の弓で出て来た。俺よりもよっぽど手慣れているので心強い。


「ヒロキ様、私は下からお手伝いします!」


「ありがとうございます!」


 そしてすぐに彼は矢を放つ。当たりはしないが、大鴉達は驚いて隊列を乱す。


 そこへカリンが水鉄砲で追い討ちをかける。大鴉がカリンを狙うとしても、あちらにはユリウスがいるから大丈夫だろう。


 俺は落ち着いて弓を引く。練習した距離よりも目標までの距離は近い。カリンのお父さんの弓は年代物で矢も曲がっているが、俺のは新しいし、矢もジークさんから譲ってもらったものだ。


 弓を引いたら狙いを定める。俺は身体を固定するイメージを強めた。ガキの頃バスケを習い始めたとき、シュートの練習はゴールに向かって砲台のように構えるのだと習った。型を覚えればその体勢から真っ直ぐボールを打ち出す。


「俺は砲台——いやバリスタだ」


 ジークさんに習った姿勢を保つ。


 あいにく、的は止まってくれない。それでも空中で止まるように、ユリウスとカリンが囮になってくれている。


 移動中のカラスじゃない。獲物をからかうようにその上空を回っているのだ。大丈夫。


 俺は狙った場所に大鴉が入り込む瞬間、矢を放った。


「ここだ!」





 ——ギャアアアアー!!!


 耳障りな悲鳴が辺りに響き渡った。



 つづく

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