第218話 子ども達の記憶に残りますように!

 ひとしきりニヤニヤした後、ジークさんは俺と目が合うと咳払せきばらいを一つして真顔に戻った。少しだけほおの赤みが残っていてちょっとだけ——可愛らしいと思った。


 きっとフォリアに憧れを抱いていて、「似てる」って言われて舞い上がったのだろう。そういうところは子どもっぽくて普段のジークさんからは想像もつかなかった。


 俺の面白がっている内面を見透かしたように、ジークさんはにらむように見下みおろして来る。


「はい、誰にも言いません!」


 察してそう言ったら更に怒られた。

 笑ったり怒ったり忙しい人だ。





 昼食の後、昨日出した小さなダンボール箱を2つ抱えて、俺は村に向かった。中に入ると、広場で子ども達が遊んでいる。俺を見つけると駆け寄って来た。


「ヒロキ様!あそぶ?」


「おう、その前におもちゃ持って来たぞ!」


「おもちゃ⁈」と、わっと騒ぎ出す。ダンボールを開けて中を見せると、思い思いに中の物を取り出して眺めている。


 俺は昨日カリンにして見せたように遊び方を実演する。


 おお、彼らの瞳が輝いているではないか!特に男子!


 唯一の女の子・リシェルも目をキラキラさせてコマを手にしている。


 リシェル。

 マルト。

 ヨハン。

 アル。


「遊ぼう!」


 スタジアム代わりに地面に円を描いて、遊び始める。


 きゃあきゃあと楽しげな声が久しぶりに村中に響き渡った——。




 それから箱の中のおもちゃの説明をして、日暮れ近くにウベさんの家にベビー服を届けた。特におしゃれ着のベビー服に驚いていたのが印象深い。


「大切に使わせていただきます」


「大丈夫です。ほら、増やせるから。足りなくなったら村に知らせて下さい。届けに行く——行きます」


 その前に無事生まれたら知らせて下さい。きっと皆んなで会いに行くから。


 ウベさんは俺の手をギュッと握った。そして俺と約束した。


「ええ、きっと知らせます」




 ちょっと寂しい気持ちで村の門を出ると、カリンと俺のベンチにジークさんが腰かけていた。


 薄闇の中だったので思わず「うわっ」と声が出る。


「なんだその態度は?」


「驚いただけです。何してるんですか?」


 呑気のんきに俺が聞くと、ジークさんは長弓で少し先を指した。


 ユリウスが黄昏の中麦畑の跡地に銀聖水を撒いているのが見える。


「あっ……いつの間に……」


 俺が子ども達と遊んでいる間に、どうやら大鴉がやって来たらしい。ジークさんは涼しい顔で、


「かまわん。騒ぎ出す前に仕留めた」


 と言う。

 最強かよ。


 死骸を清めたあとカラスから矢を抜いたユリウスが戻って来る。


「寂しそうだな」


「まあな」


 ジークさんは矢を受け取ると、緑色のマントをひるがえしさっさと村へ入って行った。


「ジークさんに挨拶しそびれたなぁ」


「いつもあんな感じだ。気にするな」


 ユリウスも少し疲れているみたいだ。

 俺がそう言うと、彼は盛大にため息をついた。


「ジーク様は厳しいのだ!」


 いや、今まで羽を伸ばし過ぎていただけだろ。




 つづく

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