第216話 それは君の瞳に似て!

 俺はいつの間にかカリンのそばに立っていた。地面を撫でるようにしてスプーンを探している彼女が顔を上げる。白い額に少し泥が付いていた。


「ヒロキ、泣かないで。私が見つけますから」


 そう言われて、俺は自分が泣いているのに気がつく。涙があふれてとまらなかった。


 俺もかがんでスプーンを探し始める。指先に神経を集中させて、枯れ草をかき分けて——。


「……」


 どれくらい探していたか分からない。いつの間にか少し日が傾いている。


 それはそっと目の前に差し出された。


 水色のリボンの付いた『シルバー・スプーン』。


 その水色は君の瞳の色に似て。



「ありがとう」


「ヒロキ、教えてください。このスプーンには何と書いてあるのです?」


 俺は刻まれた文字を説明した。カリンはやっぱり、とうなずく。


「ヒロキは愛されているじゃありませんか」


「……そう、なのかな?」


 まあ、赤ん坊の頃の話だ。そういう時もあったに違いない。


「そうですよ。あの箱にはたくさんの想いが詰まっているんです」


 ああ、そうだな。

 そしてそれはウベさんとハイジさんがまた赤ちゃんに渡していくのだろう。


 俺はスプーンを夕陽にかざした。


 今度村の工芸家・グスタフさんに磨き方を聞いてみよう。


 カリンに向き直ると、俺は手を伸ばしてその額の汚れをぬぐった。


「な……?」


 カリンの動きが止まる。


「俺のせいで汚れちゃったな」


「こここ、これくらい毎日のことですっ!」


 カリンはほおを紅く染めてパッと離れた。その様子を見てから俺は自分のした事に気づき、慌てる。ちょっと感情がたかぶっていたのだろう。今更いまさら恥ずかしくなる。


 でもちょっとだけ、彼女が側にいてくれるように手を握れば良かったと思った。




 つづく

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