第214話 それは懐かしくもあり!

 カリンのリクエストで「宝物」の方から開ける事にした。


 古びて薄っぺらになったガムテープをがす。開いてみると、目に飛び込んできたのはごちゃごちゃした形の様々な色彩。


「あ……」


 一瞬、懐かしさに胸がギュッとなる。


 小学生の頃遊んだベイ○レードとか、バクガ○とか、カード類もある。もっと小さい時の木製のコマやカタカタ動く犬のおもちゃ。それからビー玉や食玩のオマケ。映画の入場特典のおもちゃもあった。


 なんだかわからないけど、数ピースのブロックも入っている。そうかと思えばグルグル巻いた紙で出来た伸びるおもちゃも見つかる。


「……っかじゃねえの」


 なんでこんな下らねえものとってあるんだ。


「これ、なんでしょう?」


「ん……コマの一種で……コマってわかる?」


「知ってますよ!手で回すんですか?」


「ランチャーってので回すんだ」


 俺がやってみせると、カリンは「きゃっ」と目を丸くする。ひとしきり遊ぶと——説明すると、俺はこの箱を子ども達にプレゼントしようと言った。


「どうせ部屋には残ってるから大丈夫だ」


「ふう、見た事のないものばかりです。面白かった」


 カリンもこういうの面白いんだ。思わずほおがゆるむ。


「こっちも開けてみるか。ベビー服ならウベさんちにちょうどいいよな」


「早く早く」


 カリンは俺が次に何を出すのか興味津々だ。急かされて俺は乾いたテープを剥がした。




「わぁ!可愛い!!」


「……」


 カリンは1番上にあったベビー服を見て歓喜の声を上げた。


 逆に俺は無言になる。


 と、いうのも俺自身は着た覚えも見た覚えもないからだ。子どもの頃のおもちゃよりも、ずっとよそよそしい何かにしか見えない。


「これ、ヒロキが着てたんですか?」


 カリンが細い指で1番上にあったオフホワイトのふわふわフリルとポンポンの付いたベビー服を取り出した。


 なんていうか、おしゃれ着って感じだ。


 その下からは水色の普段着みたいのが出てきた。すごく小さい。


「……」


「ヒロキ?」


 名前を呼ばれてハッとする。


「ああ、うん。多分着てたんだろう」


 ぼんやりと思い出すのはアルバムに貼ってあった写真だ。一冊まるまる赤ん坊の俺の写真が貼ってあった。


 その中にこの服を着た俺がいたような気がする。


 カリンにそれを話すと、少し考える仕草しぐさをする。


「写真ってあの『すまふぉ』で撮る物ですよね。ヒロキが赤ちゃんってことはどなたが撮ったのですか?」


「……」


 俺はこの箱を開けた事を後悔した。


 母親に抱かれた赤ん坊の俺の写真を撮ったのは——。




 俺はそれを口に出したくなくて、押し黙った。奥歯を噛み締めると、についての思考を停止しようと試みる。


「ヒロキ、服の他にも何か……」


 カリンの声に現実に引き戻される。


 そうだ。

 会話してたら思い出さなくて済むじゃないか。


 カリンが指差すのは、白い小箱だった。服の間に挟まれるようにしてしまってあったらしい。


「なんだこれ?」


 白い小箱は薄型で10センチかける10センチくらいの物だ。銀色の文字が印刷されている。


 俺は蓋を開けた——。




 つづく

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