第213話 子ども達への贈り物!

「ヒロキ!どうしたのですか?」


 カリンの声が弓の特訓でボロボロの俺の身体に染み渡る。


 い、癒される……。


「ちょっと……ジークさんに弓を教えてもらって……」


 少し前までバスケをやってたから、もう少し動けるかと思ったけど……。

 俊敏さよりも、筋力が足りないのだろう。弓を引くのにすごく力がいる。


「とりあえず引ける様になったけど……」


 引くだけ。

 矢はヘロヘロと地面に落ちてしまった。ジークさんみたいに速さもないし当然の事ながらコントロールも無い。


 ジークさんには「追い払う事が出来れば上出来だろう」と冷ややかな声で言われてしまった。


「何事も練習です。私なんか初めてパンを焼いたときのこと、まだ覚えてますよ」


 カリンが子どもの頃、初めて自分一人で作ったパンは——ゴリゴリと固く、とても食べれた物ではなかったそうだ。


「今では上手に焼ける様になりましたよ」


「そうだな。明日も練習する事になったんだ……あ、カリンに伝えとかなきゃ」


 いきなりの特訓が始まり、カリンにはまだウベさん達が町へ避難する事を伝えてなかった。


「……そうですか……寂しいですが、仕方ありませんよね。ああ、赤ちゃん見たかったなあ」


 すごく残念そうにカリンはそう言った。


「大丈夫。近いから会いに行けるよ。それにジークさんが騎士団の分隊をつれて来るから、魔物を——グロスデンゲイルを倒したらまた村に戻って来るさ」


「そっか、そうですよね!戦いのあるここより、安全な所でお産した方が良いですもの」


「それで、明後日あさって出発なんだ」


「えっ?」


 さすがに驚いている。


「なんだかすごく寂しいです」


 カリンは少しうつむいた。子ども達も多分避難するだろうから、村も静かになってしまいそうだ。


 俺はその悲しげな雰囲気を変えようとつとめて明るい声を出した。


「それでさ、何か使えそうな物をプレゼントしようと思うんだ。俺の部屋に子どもの時のおもちゃを詰めた箱があったから、一緒に見ないか?」


 カリンはにっこり笑って「良いですね!」と同意する。俺にとっては彼女の同意は力になるって事、知らないんだろうな。




 俺は部屋のクローゼットから小さいダンボールを2つ出してきた。それぞれ母親の字で「ヒロキ宝物」、「ベビー服」とマジックで書いてある。


それを作業台の上にドンと置いた。


 カリンが文字に興味を示したので説明すると、彼女の顔がパァッと明るくなる。


「ヒロキの宝物、見たいです!」





 つづく

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