第205話 彼方より来たるもの!

 寒がりな大商人が連れて来た豚と羊は村の人気者になった。気が利く大商人は彼らのエサまで用意してくれていた。


「しばらくはもつかな?」


 家畜に詳しく無い俺の質問に、コリンが答えてくれる。


「暮れまでは……もつ……」


「そっか。村の外にある麦藁も集めておくか?」


「そう……だね」


 おっとりと話すコリンはかわいい弟みたいな感じだ。動物が好きで、鶏が来た時から面倒を見ている。豚と羊の世話も中心となってやっているみたいだ。


「俺の世界では『好きこそものの上手なれ』って言葉があるんだ。きっとコリンはたくさん家畜を増やせると思うぞ」


「……」


 照れている。

 来年はリール村産のお肉が食べられるかもしれない。(……このかわいいブタを食べるの?)




 雑念はさておき、俺はこの前の戦いでぶっ飛んだ麦藁を集めるのを手伝う事になった。ボロとダズンも手伝わせる。


 こちらのリーダーはカリンのお父さんだ。門番をしながら村の前の畑をきれいにするのだ。


「ヒロキ様、麦藁は集めきれなければ

 土に混ぜてしまいますから、大まかに集めましょう」


「わかりました」


 農業用フォークで飛び散らかった藁をかき集めて行く。所々に藁の山を作ると、ダズンが運んでさらに大きな藁の山を作った。


 藁の山が2つ、3つと出来上がっていく。麦は取れなかったけど、藁は家畜の餌になったり寝床になったりする。


「ダズン、門の前まで運んでくれ。あとはコリン達が小屋に運ぶってさ」


 ダズンはゆっくりとうなずくとデカい手でゴッソリ藁を抱えて運んで行く。


 そこへ——。


「ヒロキの旦那ァー!」


 少し離れたところの藁を片付けていたボロが走ってくる。何やら顔色が悪い。


「あれ…!」


 これが指差す方を見ると何かが空を飛んで来る。黒い小さな点はひとつでは無い。それはだんだんと大きくなって、俺の目にもそれが何であるかわかってくる。


「カラス……?」


 しかし普通の大きさでは無い。

 すごく大きい。

 そしてアイツらの眷属だと直感で分かる。


 禍々まがまがしい羽根を広げて、カラスは見る見るうちに近づいてくる。


「みんな村に入って!」


 俺が叫ぶと村の外にいた人々は走って避難する。幸い数人しか出ていなかったので、避難は直ぐ完了する。


「俺達も行こう」


 ボロとダズンを促して、俺達は丘の方へ退避だ。丘へ行けば銀聖水入りの水鉄砲がある。追い払うくらい出来るだろう。


 しかし、3羽の大鴉は村の方へ行く。村にも結界があるから入れないのだが……?


 どうやら村の門の近くでウロウロしている。


「……俺、ちょっと様子を見てくる」


「ヒロキ、危険です」


 カリンが俺を引き止める。


「でも、気になるんだ。大丈夫、水鉄砲も持って行く」



 つづく

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