第195話 もう、打ち明けちゃいます!

 これはもう、本当の事を言った方がいいような気がする。取引で足元を見られるかもしれないが、村へ入れば菓子など作っていないことはぐにバレる。


「あのう、オットーさん……」


「何ですかな?」


「俺、まだ話してない事があるんです」


 オットーさんはキョトンとした顔をして首をかしげる。(というか顔をかたむけただけにも見える)


「あの菓子は、職人が作っているのではないんです」


「……?」


「オットーさん?」


 大商人は、はたと手を打つ。


「なるほど!意外や意外、村の奥様方の作品かな?それにしては大きさや形が揃っていたが……」


「オットーさん、信じられないとは思うんですが、女神フォリアの恩恵で、菓子パンが増えるんです」


 ああ、俺、何言ってんだろ?オットーさんもいぶかしげな目付きに変わっているじゃないか!


 これは見せた方が理解が早いだろう。


 俺とカリンはオットーさんの手を引いて丘を登った。


 俺の部屋の脇ではまだボロとダズンが布団にくるまってグースカ寝ている。


「カリン、オットーさんを窓の方へ案内してくれ」


 俺は部屋に入り、窓の外に2人がいるのを確認して、窓から菓子パンを袋ごと差し出した。


 オットーさんはそれを受け取ってしげしげと眺めている。きっと奇妙な袋に入っていると思っているだろう。


 俺は再び菓子パンを差し出す。


 二つ、三つ、四つ……。


 オットーさんの顔に驚きの色が浮かぶ。と、同時に理解したらしく、窓から手を突っ込もうとした。


「おう⁈何かがある?手が入らん!」


 この部屋は俺以外の人や、俺の部屋の物以外の物質を中に入れないという状態になっている。


 オットーさんが何となく理解してくれたようなので、俺も部屋の外に出た。


 カリンがちょうど彼女の小屋の作業場に案内していた。作業台の前の椅子を勧めている。


「オットーさん、わかりましたか?」


 彼は作業台の上に載っている、今出したばかりの菓子パンを興奮した様子でひっくり返したり光に透かしたりしながら、観察していた。


「これは…?いや、何で出来ているのか……?不思議な……」


 カリンが袋の開け方を教える。袋のギザギザから割いて開けるのだ。(真ん中を反対側に引っ張る方法もある)


 中から菓子パンを引っ張り出すと、オットーさんはしばし見つめた後、大きな口でかぶりついた。


「……うまい!……確かにあの菓子ですな……」


 もぐもぐと口を動かしながら、オットーさんは確かめている。三口くらいで菓子パンは無くなってしまった。


「なるほどなるほど。いや、わかってきましたぞ。まことに女神様のお恵みのようですな」


 ふいーっと長い息を吐きながら、しみじみと彼はそう言った。


 そしてその無邪気そうな瞳をキラリと光らせる。


「原価ゼロですかな?」


 言うと思った!



 つづく

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