第191話 女神様は見ていました!

 ああ、はい、そうですよね。


 フォリアの求める救世主の資質に、俺が合致がっちした訳だな。ありがたい話だ。


『他人に気を使い過ぎる所も気になったぞ』


「あんまり褒められてる気がしなくなって来た」


 俺が気持ちを鎮めながらそう言うと、フォリアはまた微笑んだ。


『そう言うな。他人の気持ちがわかるからこそ、お前は気を使い過ぎるのだ。私がお前を見つけた時は、だいぶ萎縮していたな。それを見た私はそなたを解放してやりたいとも思った』


 俺を見つけた時?


 それはどうやら救い手を求めて、フォリアが空間を超えながらいろんな世界を眺めていた時の事らしい。


『様々な世界を見て、様々な人を見て、その中でお前を見つけた。しばらく観察して、其方そなたの心根の優しさを私はこの世界にもたらそうと思った』


 そう言いながら彼女は『黒髪もポイント高かった』と自分の趣味を披露した。


『もちろん、他にも候補になりそうな人物はいたのだが、私はヒロキが心を硬質化させそうな危機を感じた。それは良くない事だ』


 あの日——。

 この世界に来る日。


 前の晩にはまた父親とケンカし、その日の学校でも何となく人の輪に入れず、俺の気持ちはぐちゃぐちゃだった。


 何でこう上手く生きていけないんだろうと思ってた。


 独りでもいいさとうそぶいて、でも心は寂しくて。


 コンビニで物を買って、食い物とマンガとあれば困らねぇな、とか思って。


 でもすぐに食ったり読んだりする気が起きなくて、ベッドの上に転がったんだ。


 そして、目が覚めたらこの世界にいた。



 涙が落ちた。


 熱かった。


 なんだ、救われたのはやっぱり俺の方だった。




 つづく

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