第190話 女神様は惹かれました!

 気がつくと俺はフォリアの手を取ったままの姿勢だった。


 どうやら一瞬の事であった様だ。


『見たか?』


「ああ」


 嫌な気持ちだ。

 ハイランダーが受けた仕打ちや2人の気持ちを考えると、胸に何か重い物が押し込まれたみたいな気持ちになる。


『これで私がここへ降りられる訳がわかったであろう?この丘に私の一部が眠っておる』


 もう、フォリアは涙をこぼさなかった。強さのあるいつもの瞳に戻っている。


「あの……さ……」


『何も言うな。全ては過ぎた事だ。それに——』


 フォリアは俺の指先をギュッと握った。


『私は最期まで彼と共にいることができたのだ。それを幸せと言わずしてなんと言う?』


 と、微笑んだ。


『ヒロキ、私は誰も憎んではいない。だからお前も死した者を憎んではならぬぞ』


「俺は別に……」


『嘘をつけ。彼に同情しただろう?』


「それは、まあ、そうだけど」


 そりゃあ、戦士達にもいろんな考えがあっただろうけど、俺は引き裂かれた2人の方に感情移入してしまう。悲しくて苦しくて腹だだしくて、俺の方こそ泣きたくなった。


『同情はかまわぬ。だからお前を選んだのだ』


 え?

 いまなんて言った?


 俺がフォリアの言葉に驚いて顔を上げると、女神様はニヤッと笑った。


『お前の、人の心情を思いやる人柄に、私はかれたのだ』





「そ、それはどういう意味だ?」


 いや、確かに俺みたいななんの取り柄もない、しかも部活辞めてマンガ本買って帰るような、友達少なくて、親ともうまく行ってなくて——っていう高校生を選んでこの世界に連れて来た理由を聞きたいと思っていたけども、よりによって、ひ、人柄ですか?


 褒められる様な人柄じゃないけど?


 戦えるほどの筋力も勇気も度胸もないし、リーダーシップをとるほど積極的じゃないし、策略を巡らすほど頭良くないし?


 ままま、全く、フォリアは何を言っているのか?


 俺は動揺して、目を泳がせる。頬が熱い。きっと顔が赤くなっているだろう。俺自身の事は褒められ慣れないから、過剰に反応してしまう。


 ましてや「かれる」なんて言われた日には——。


『……男としてではないぞ。救世主としての資質の一つとしてだぞ』


「……」




 つづく

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