第178話 助けたいよな!

「カリン、念の為『ツバメ』を用意していてくれ」


銀聖水が無い今、確実にグロスデンゲイルの黒い霧を消滅出来るのは、カリンの持つ銀の御守りだけである。


カリンは無言でうなずくと、そっと胸元から銀の燕を出した。


俺は村のみんなを下がらせる。


村の人々も、ボロもお互い牽制しあっているからだ。


人垣が遠くなると、ボロも少し落ち着いた。


「黒い霧に取り憑かれていた時のことは覚えているか?」


俺もダズンの側に屈み込みながら、ボロに聞く。少し怯えた様にしながらも、彼は答えた。


「……あ、ああ。なんか、少しだけ覚えてらぁ。気分が悪くて、吐きそうなんだけど、えらく強くなった気がした」


ほう。なるほど。


「でも、周りのもん全部が憎らしくて、恨めしくて、俺の中の力をぶちかましたくなって……」


ボロは俺を見るとすまなさそうに続けた。


「あ、頭ン中に声がするんだ……俺のかコイツのか、カシラの声かわからねえ声が命令するんだ。お、俺の身体はその命令通りに動くんだ」


コイツの言う通りなら、黒い霧に操られていたのだろう。


「カシラとは傷男のことか?」


俺よりも少し離れて距離を取るユリウスの問いに、ボロはビクつきながらも首を縦に振った。


「俺達の『カシラ』だからよ」


「わかったよ。じゃあまずはコイツを起こさないとな」


「へ?」


俺がそう言うと、ボロは目を丸くした。俺は複雑な笑みを浮かべながら続けた。


「生きてるなら起こしてみよう。まだ黒い霧の影響があるならなんとかしないとな」


「だ、だってコイツはアンタに酷いことを……」


まあ、そうなんだけどさ。


「今更そんな事言ってる場合じゃないだろ」


俺がそう言うと、ボロはそれこそ涙で顔をクシャクシャにしてダズンの分厚い胸に突っ伏した。


「すまねぇ……」


ユリウスがお手上げみたいなジェスチャーで勝手にしろと伝えてくる。彼にしたら俺の甘さが嫌なんだろう。


そこへカールが走ってくる。手には加圧式水鉄砲のタンクを持っていた。


「ヒロキ!これ、少ないけど村の水鉄砲に残ってた銀聖水!」


おお!

まだ残っていたか!


「ありがとう、カール」


本当に気が効くヤツだぜ。


「よし、コイツを起こしてみよう!」



つづく


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