第179話 許したわけじゃないけど!


カリンが銀の御守りを構え、ユリウスも剣の柄に手をかける。


俺は水鉄砲のタンクを持ち、ダズンの目覚めに備えた。


そうしておいて、ボロに合図する。


彼は一つ大きくうなずくと、ダズンに声をかけた。


「おい、起きろよ。ダズン、起きろって!」


ボロがゆさゆさと揺さぶると、ダズンは小さく唸り声をあげた。


「起きろよ、ダズン!」


仲間のその声に、はっと目を開けるダズン。俺達の間に緊張が走る。


「う……?」


「おい、俺が誰だかわかるか?」


次第にダズンの目の焦点が合ってきたらしく、小さい声で「ボロ……」と呟いた。


「そう、俺だよ!ボロだ」


大男はゆっくりと起き上がろうとする。ボロが手伝いながら、なんとか上体を起こした。


遠巻きにしている村の人々からざわめきが聞こえる。


「ダズン、大丈夫か?……あのな、今からこの人がお前を助けてくれるからな」


ボロはそう言って、俺の事をダズンに知らせた。


ダズンはゆっくりと目だけ巡らせて俺の姿をとらえる。その瞳がやや開かれて、驚きの感情が伝わってきた。


俺も出来るだけ穏やかに語りかける。


「俺の事、わかるな?」


「……」


答えはなかったがその目が俺とボロの間を行ったり来たりして動揺しているのが傍目にもわかる。ボロに説明を求めているのだろう。


ボロが説明する。


「うん、そうなんだ。この人がお前を許して下さるンだ」


……全て許した訳ではないが……。

ま、いいか。


「これ、飲めるか?」


俺は銀聖水の入ったタンクを差し出した。ボロが受け取って、ダズンの口元へ持って行く。


はたしてダズンは——。




銀聖水をゴクリと飲み込んだ。




しん、と静まり返る。


ボロが俺の顔を伺ってくる。俺は強くうなずき返す。


「大丈夫だ。黒い霧の影響は消えてる」


ボロが半泣きになりながら相棒ダズンに抱きついた。




つづく

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