第165話 襲撃!

しかし、俺達の準備が整わないうちに奴らはやって来た。


それは本当に突然で、村の外にいたものは慌てて村内に戻る。


生暖かい風と黒雲とを引き連れて、奴らはやって来たのだった。



「ヒロキ!まだ何も…」


何も準備していません、とカリンが悲痛な声を上げる。

そう、弓矢の話も村長にしたばかりだし、矢にもフォリアの力を付与されていない。


手元にあるのは——。


俺はカリンに指示すると、水鉄砲を持って1人駆け出した。なんとしてもユリウスと連携を取らないと迎撃できない。


まだ遠くにいる奴らを横目に俺は村へ駆け込んだ。ユリウスが血相を変えて駆けてくる。


「カリン殿を置いて来たのか⁈」


「あの丘は結界があると言っただろ。大丈夫だ。お前に頼みたい事がある」


俺の作戦を聞くと、ユリウスは借家に戻り、鎧を身につけて騎馬を引いて来た。


その間にカールにも作戦を伝える。


「今回はあの丘とリール村の結界が頼りだ。お互いアイツらの注意を引き付けてどちらに進むか迷わせてくれ」


デルトガさん達にも声をかける。


「今日の戦いは追い返すのが狙いです!支援をお願いします!」


とは言うものの、村には常備している銀聖水入りの水鉄砲があるばかりだ。


そう言っているうちに例の3人を先頭に狼達が近づいて来ていた。


因縁の3人組だ。


俺はわざと標的になるために奴らと丘の間に目掛けて走る。


俺の姿を目にすると、奴等の足が止まった。


俺も正面から向かい合う。


薄汚い赤いバンダナの猫背の男。

肩から獣の毛皮をかけた大男。

顔に大きな傷のある背の高い男。


聞いていた通りに、3人とも肌の色が土気色に変わり目の周りも黒いクマがくっきりとついている。それでいて身の回りに黒い闇の様な影が見える。


霧なのか?闇なのか?


『ゔぁ…あいつ…だ』


大男が口を開く。

低くビブラートがかかっている声は3人同時に話しているのかと思うほど人らしくなかった。


大丈夫、まだ距離がある。

前回は銀聖水で追い返す事が出来たと聞いた。


『お前…覚えてるぞ…死なないヤツだ…』


大男は口からヨダレを垂らしながら低く唸る。


『へっへっへ…また、会ったなぁ…』


バンダナも声を出す。


そして最も濃い闇をまとっているのが口を開いた。傷男だ。ここでもリーダーなのだとわかる。狼達を操るように手をゆるやかに振り、自分達の周りをぐりると一周させる。


『我が名はグロスデンゲイル。先日は世話になった…』


どちらの事を言っているのだろう?

3人の記憶なのか、黒狼の記憶なのか?


『くくく…どちらも、だ。ヒトの体がこれ程にも馴染むとは思わなかったぞ、少年』


こいつだけ話し方が違う。

きっと『核』なんだ。グロスデンゲイルの大元。


『この者達の記憶でもお前は生き返っていた。お前の力はなんなのだ…』


これは…。

思考している。




つづく

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