第129話 楽しいピクニック!

「あーあ、『銀龍亭』で食べたかったなぁ」


のどかな風景の中、カールがボヤいている。


「なによ、このパンだって美味おいしいでしょ?」


それをエレミアがたしなめる。


俺達は町からの帰り道、街道沿いの眺めの良いなだらかな丘でピクニックみたいにして遅い昼食を取っていた。


カリンとエレミアが買って来てくれたのは、キャベツの酢漬けと大きめの腸詰めを焼いた物を大胆に挟んだハードブレッド。


ライ麦を使っているのか生地が黒っぽい。そして濃い味付けの腸詰めにすごく合う。


それからジャガイモを丸のまま茹でたものに塩気のあるバターを落としたもの。まだ暖かい。


切り分けて食べるのはチーズだ。クセがない味で俺でも食べやすい。外側がやや硬いのが難点か。


そして飲み物は今日は俺の部屋から持ってきた水と炭酸オレンジジュースを配った。


「美味いけどさ、こう、なんて言うかガツンと来る味の物が食べたかっ…」


そこまで言ってカールは口を閉じる。エレミアにギロリとにらまれたからだ。


コリンはもくもく食べている。よく食べるから、もう少ししたらグッと背が伸びるかも。


「ヒロキ、これもどうぞ」


カリンが切り分けてくれたチーズを配ってくれる。


「ありがとう。…あれ?ユリウス、機嫌悪そうだな」


ユリウスはせっかくの美味しいランチを、さっきからずっと仏頂面で口に運んでいる。俺が声を掛けるとこちらはジトッとした目でにらんでくる。


「……機嫌が悪そうだと?悪いに決まっているだろう」


「あー、原因はやっぱりアレか?」


「わかっているなら何とかしろ!」



ユリウスが怒っているのは、多過ぎる荷物の事である。運ばせたのはまだしも、積載量過多の為にペルが動けなくなり、ユリウスの騎馬にも荷物を積む事になってしまったのだ。


戦う為の騎馬に麦袋を積むのはさぞかしプライドに傷がついた事だろう。


それでも皆のヨイショと俺が頭を下げる事で請け負ってくれたのだから、本当にありがたいと思っている。


彼の事だから女子の手前、ケチくさいことが出来なかった可能性もあるが…。


当然俺達もジャガイモとかリュックの中に入れて歩いている。カリンとエレミアのリュックには野菜の種がぎっしりだ。


ペルを少しでも楽にするために皆が歩いている。だから途中でピクニックするのは良い案だった。休憩も兼ねているからな。


「あー、いい天気だ」


抜けるような秋の青空の下、俺は心からピクニックを楽しんでいた。



つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る