第104話 君の腕と俺の腕!

 ちょっとドキドキする。

 いや何があるってわけじゃないけど。


 そんな簡単なことで気分が良くなる自分のちょろさが憎い。


「え…と、あ、そうだ。今度はコートを持ってくるよ」


「楽しみです。どの位詰めなきゃならないかしら?ヒロキは肩幅もあるから…」


 コートは仕立て直しをして、カリンのサイズにすると言っていたが、肩幅やそで丈も直すらしい。


「ヒロキ、腕を見せてください」


 そう言ってカリンは自分の腕を伸ばして俺の腕に合わせる。


「…手のひら一つ分くらいは違いますね」


「そりゃあ俺の方が背が高いからな」


 お揃いのコートが楽しみだ。

 自然とにやけてしまう。


 そんな俺達を柔らかなオレンジ色の夕陽が照らしていた——。




 その夜は残念ながらフォリアは現れてくれなかった。


 彼女が現れてカリンに憑依ひょういしてくれれば、それを見たユリウスも俺の話を信じてくれるだろうに…。


 翌朝、「やはりな」というような目で俺を見てくるユリウスに悔しさを隠しながら声をかける。


「昨夜は現れなかった」


 ユリウスは鷹揚おうよううなずくと、意外にも「町へ行く」と言う。


「帰るのか?」


 ちょっと声に嬉しさがにじんでしまった。それに気がついたユリウスは片眉をあげる。


「リール村に駐屯する許可を得に行ってくるだけだ」


 なんだそうか。


「騎士団の許可がいるのか?」


流石さすがに好き勝手は出来んのでな。残念ながらすぐ戻ってくる」


「別に残念じゃないけど…」


「なんだ?」


 俺の愁傷しゅうしょうな態度に彼は興味を持ったのか聞き返してきた。

 俺は続ける。


「町に行くなら…」


「町に行くなら?」


「ベーコンと腸詰め、買ってきてくれないかな?」


 丘には鎧姿のユリウスがコケる音が盛大に響き渡った。



 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る