第105話 冬支度です!

 イケメンの深緑騎士グリューネ・ヴァルトはぷりぷり怒りながら町へと向かって行った。


 それを見送りながら遠い東北の空を眺めると、いつぞやのように黒雲がわだかまっていた。


 風に流れるでもなく、ただその場に居座るようなその雲はとぐろを巻く黒い蛇にも似て、見る者の不安をかきたてる。


 ここへ攻めてくる魔物のリーダーと言える黒狼を倒したのに、黒雲は晴れない。もう少し薄くなってくれても良いだろうに。


 その事もまたスッキリしない。


 あそこにはまだ『黒い霧』と呼ばれる魔が存在するのだろう。



「どうしました、ヒロキ?」


 カリンだ。空を見ていた俺を不審に思ったのかもしれない。


「うん、まだ遠くに黒雲が見えると思ってた」


「…そうですね。でも、少し前はもっと近くにあったように思います」


「そうか。それなら少しは良くなっているのかな」


 俺は黒雲のよどんだ暗さが気にかかったが、カリンにそう言われてとりあえず納得した。


「これからは寒くなりますから、今から薪を集めておくんですよ」


「あ、そうか」


 蓄えが何も無いからな。

 村なら少しは薪や干し草が置いてあるのだが。


「みんなが蓄え始めるので、少し遠くの森まで行くときもあるんです」


 そうか、そうしなければ冬を越す程の燃料——薪や枯れ枝は集まらないだろうな。


「よし、これからは手の空いた時間に薪集めもしよう!」


 俺の宣言になぜかカリンが拍手をくれた。



 つづく

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