第86話 歩きにくいです!
「なんか歩きにくいな」
「仕方ないね。生き返ってるんだから」
「カール〜そんなこと言うなよ〜」
「急に気弱になんなよ!」
町に入ると前回の事件を知っている人は俺の顔を見て「ギョッ」とするのだ。(服も目立つ原因なんだろう)
町に入る為の受付の人。
市場の受付の人。
ウチの店で買ってくれた人。
事件の時見てた人。
皆驚いたあと、ジロジロと無遠慮に眺めて遠ざかる。
喜んでくれたのはベーコン屋の親父さんくらいだ。
「お前さん、生きてたのか!」
「親父さん〜」
「いやあ、てっきり死んだもんだと思ってたぜ」
「いや、死んでたんすよ」
「嘘つけ」
そう言って親父さんは「ガハハ」と笑う。
まあ、普通はそうだろう。
信じないよな。
やっぱ死体の俺を見てる人が驚くんだな。
しかし売れ行きに関わるとエレミアに言われ、バスタオルを頭からかけられて顔を隠す羽目になった。
まったくもって怪しい人になっている。かえって堂々としている方が「死んでなかったんですよ〜アハハ」で良いと思うのだが。
今日もまずは菓子パンとカラーやカフスを並べる。
他にも布としてシーツ、マフラー、スポーツタオル…それからいつもの商品に加えてシーツやバスタオルで作った子供服を出す。(これは村の奥様方が作ってくれた)
滑り出しは上々。
いつものように売れていく。
やはり新しい商品は目にとまるらしく、売れ行きが良い。
今日の売り上げも楽しみだ。
ふふふ、とほくそ笑んでいると急に店の前がざわつき始めた。
「あれあれ、有名な…」
「私も聞いたことある!大商人の、でしょ?」
「そうそう。その人よ!あの派手な服、間違い無いわ」
「こんな小さな町に何しに来たのかしら?」
ヒソヒソ噂話に花が咲く。
しかもなんだかうちの店の前の人垣が二手に分かれ、開いた真ん中を堂々たる体格の男がお付きの者を従えて悠々と歩いてくる。
その派手さに驚く。
リール村の人々に比べたら町の人々は幾らか華やかなのだが、その華やかさという表現では追いつかない、別次元の派手さがこの男にはある。
上背も体つきも堂々としていて肉付きが良い。やや太っている部類ではあるが、デブと呼ぶのは似つかわしくない。
その体を上質な縞柄のビロード生地の衣装で身を包み、所々に金糸の刺繍がキラキラとする。
体格にあった大きめの顔はヒゲを蓄え、やや小さめの瞳は笑みを浮かべている。
頭髪は薄く、ほとんど坊主に見える。服と揃いの縞柄のベレー帽をそこに優雅にのせていた。
男は正面からやって来て、うちの店の前でピタリと止まった。
「ほう、これが噂の菓子か」
腕を後ろ手に組んで商品を覗き込む。
「ふむ、ほう」
何やら仕切りに頷いている。
その様子を一目見ようと町の人々の人垣がどんどん大きくなる。
「誰?」
俺はカール達に小声で聞いてみたが、皆一様に首を振る。
——知らない人か。
つづく
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