第76話 君と話す自分の事!

 エレミア以外にも黒狼に家族を奪われた者は多かった。他の人も代わる代わるに俺とカリンに感謝の気持ちを伝えに来る。



「俺、全然わかってなかった」


「どうしました?」


 カリンは優しい。

 俺のつまらない独り言にも返してくれる。


「村の人が…エレミアやベルナさん、トマスさん…他にも…皆んなが家族を亡くしている事に実感を持っていなかった」


「…そうでしたか。そういえばヒロキはあまりその様な話はしませんでしたね。いつも忙しく、村の人々が飢えずに済むように心を砕いて下さって…」


 う……。

 そんなんじゃない。

 異世界こっちに来て調子に乗っていたんだ。


 調子に乗って、思いつくままやっていた。本当は他人の事はあまり気にしないタチだ。


 特に、誰かの友達がどうした、親戚がこうした、誰かが髪を切った、誰かが新しいシューズを買った…そういうのは苦手だ。


 自分好きと言えば聞こえがいいが、結局のところ俺は自分が興味ある事しか話に出来ない。


「カ、カリンのお母さんは?」


 いない、ということはさすがに知っているが、踏み込んだことは聞いていなかった。(聞いちゃいけないかと遠慮が先に立つ性格なのだ)


「私の母は、私を産んだ時に亡くなりました」




 ああ。

 自己嫌悪。


「ごめん。知らなくて…」


「ヒロキがこの世界の事で知らない事があるのはおかしくありませんよ。それに…」


 カリンは視線を空に移す。

 少し暮れかかった空は1つだけ星が出ていた。


「…父がいますから」


「…うん」


 今更ながらにひとり娘を生贄に差し出す事を了承したお父さんに頭が下がる。


 父1人娘1人で暮らしてきたのだ。


「ヒロキのお母様はどうしていらっしゃるのでしょう?」


「えっ⁈」


 俺はうろたえる。


 ここしばらく(この世界に来る前から)母親と話しなどしていない。


 時たま来るラインにも返事はしなかった。面倒だったから。いつもくだらない事を書いてくるから。うるさいって思ってた。


 いちいち干渉してきて嫌だった。

 部活を辞めた時も——。


「ヒロキ?」


 気がつくと心配そうな空色の瞳が俺を見つめていた。


「ああ、えーと、俺の母親の事だっけ…」


「もしかして!女神様なのではないですか⁉︎」


 ええーっ!?

 なんでそうなる?


「女神様がお遣わしになったからにはそうなのではありませんか?ヒロキの持つ不思議な物や高級なお布団は女神様の親心では?」


 なるほど。


 いや、なるほどじゃなーい!


 つづく

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