第74話 ジュースで乾杯!

 俺がカリンの身支度を待っている間に、村からカールが迎えに来た。


 村の外でささやかな宴会をするというのだ。


「俺達に気を遣ってくれたんだな」


「一番の英雄抜きで宴は出来ないよ?」


 そう言ってもらえて嬉しいような、照れくさいような…。


 今日くらい良いかな。


 そうそう、宴会ならジュースでも持っていくか。今まで部屋から出してなかった炭酸オレンジ。驚くだろうか?

 10本ほど用意してリュックの中につめる。


 ほどなくしてそこへカリンも合流する。


「行こう」


 ここで女子の手を取ってエスコートでもすれば格好がつくのだろうが、あいにくした事がない。


 してみたい、ような。

 いや、やっぱ無理。


 俺の右手が心の迷いを表して不自然な動きをした。



 宴会場は刈り入れの終わった麦畑に各々椅子やテーブルを持ち出して来ていて、ささやかな料理が並んでいる。


 村人みんなで飲むには足りなそうなワインの瓶が何本かと、ベーコンと野菜入りのオムレツ、この前買ってきた小麦で作った薄いクレープみたいなもの。


 それと俺が持ってきた炭酸オレンジ。

(皆珍しそうに見ている)


「杯を」


 村長の声で皆の杯や木のコップに飲み物が注がれる。


「ヒロキ、これは何?」


 カールが興味津々で炭酸オレンジを手に取る。


「ジュースだよ。子どもも飲める」


 そう言いながらキャップを回すと懐かしい炭酸の音がした。


 カールのコップに注いでやると泡がシュワシュワ出る事に驚かれた。


「うわー!何これ?麦酒エールみたいに泡が出てるけど…」


「甘いぞ。カリンは?」


「…では少しだけ」


 麦酒エールみたい、とカールが言ったせいだろうか、やや躊躇ちゅうちょしている。


 他にも子どもたちや水撒き部隊の子たちが欲しがったので注いでやる。


 皆に飲み物が行き渡ったのを確認して、村長が杯をかかげた。


「皆の者!杯を掲げよ!今日という日を讃えよ!…乾杯!」


「今日という日を讃えよ!」


 皆声を合わせて杯を掲げた。


 つづく

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る