第67話 黒狼が迫る!

 放たれた水は黒狼の後ろを走っていた奴らに見事に当たった。


 フォリアは銀聖水の力について、魔のものを寄せ付けないと言っていたが、直接ぶつけてみればどうなるか?


 …それほどのダメージは無さそうだが、嫌がっているのはわかる!


 あしは鈍くなり、先頭の黒狼とは距離が出来た。おまけに大多数が水を掛けたカール達の方向かって行く。


 カール達は村を守る外壁の上から放水しているので、安全だろう。壁を超えて狼が村に入った例はない。


 さて、問題はこっちだ。


 黒狼は速さを増し、俺に狙いを定めてまっしぐらに走ってくる。他の狼より大きい体躯たいくのせいか、その足音は地鳴りを伴っていた。


 雷鳴にも似た唸り声が聞こえてくる。


 俺は用意したものを手に身構えた。


 の端は地中に埋めた杭に繋がっている。


 一瞬が勝負だ。


 俺は傍にあった加圧式水鉄砲をカリンに放り投げた。カリンがそれを受け取り、俺のやや後方から身構える。


 見た目には俺は素手に見えるだろう。


 黒狼は勝利を確信した様に喉の奥を鳴らす。


 枯れた大地に足音を響かせて黒い風の塊がやって来る。


 それが跳躍した。


 悪意の塊が俺をめがけて空から飛びかかって来た。


 迫る牙と爪。


 黒い塊の中でそこだけがぱっくりと割れ、真っ赤で巨大な口が俺をひと噛みにする為に開かれる。


 これを待っていた!


 俺は相手の右側に体をかわし、両手で持っていたものを思い切り引っ張りあげる。


 ——⁈


 自分の身に何が起きたか分からず、黒狼はただただ痛みに翻弄されて狂った咆哮をあげた。


 俺が黒狼の前に張ったのは——魚釣り用のテグスだった。





 つづく

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