第52話 トラブル…!

 胡散臭そうな男達に道をはばまれる。

 そのうちの1人は頰に大きな傷があって、俺はその顔に見覚えがある。


『銀龍亭』にいた奴だ。


 ほかの奴らも薄汚いバンダナを巻いていたり、獣の皮で作った肩がけをしていたりと見覚えがある。


 そいつはゾロリと片刃のナイフを服の下から取り出した。


「少ぉぉし、分けてくんないかなァ」


 うかつだった。


 意図したわけでわないが、俺達は人目のあるところでお金を数えていたのだ。目を付けられるのも当たり前じゃないか。


 ましてや子どもだけで商売しているように見えるだろう。付け入る隙があると見られても仕方ない。


 仕方ないが、金を出すわけにはいかない。そして、カリン達を守らなくてはいけない。


 あたりをさっと見回すが、大柄な男達が上手く人目を遮っている。


「おっと、騒ぐんじゃねぇゾ」


 毛皮の男がナイフをちらつかせる。


 エレミアが小さく声を上げたのが背中越しに聞こえた。


 俺は後ろ手にスマホをカリンに渡す。

 渡しながら「俺は大丈夫だから」と小声で伝える。カリンが少し目を見開いてとがめるような視線をよこしたのが目の端に映る。


 意味は通じたようだ。


 背中に回した手で市場を指差す。

 逃げろ。


「ヒロキ…」


 不安げなカリンの声だが、了解したという事だろう。


「おうおう、早く寄越せって言ってんだろ!」


 ぐずぐずとする俺達に苛立った傷男が声を荒げる。それを合図に俺は毛皮の男に飛びかかった。ナイフを持つ手にしがみつく。


「逃げろ!」


 意表を突かれた毛皮男は俺が手を押さえるのを許した。そのまま叫ぶ。


 エレミアが通り中に聞こえるような悲鳴をあげる。他の通行人も何事かと振り返る。


 いいぞ。


 人が集まればコイツらも引き下がるかもしれない。


 カールが悲鳴をあげるエレミアとコリンを引きずって行く。


「何見てんだ!」


 バンダナ男が集まって来た通行人を威嚇する。それでも遠巻きに人が集まり始めた。


 いきなり脚に激痛が走る。


 足払いをかけられた。

 その衝撃で押さえていた手が緩む。

 俺を振りほどこうと毛皮男が太い腕を左右に振るが、これだけは押さえておかなくては。


 目の前でナイフがギラつくのがすごく近くに感じる。本物だ。怖い。怖いが俺が一番、刺されても良い体なんだ。


「しつけぇな!」


 ナイフを持たない反対の手で押さえつけられた。


「ガキを追うか」


 ガキ?

 カリン達の事か?


 カールがいるから大丈夫だと思いながらも俺は奴らを引きつけるために叫んだ。


「やめろ!」


 叫ぶと同時に平手打ちをくらう。

 フライパンみたいな手で叩かれて、声もあげられない。熱いものが鼻から流れるのがわかる。


「クソガキが!」


 激昂した男の手が俺の腹に向かってくる。ナイフ持った手が…!


「うわぁぁぁぁーッ!!」




 つづく





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る