姫様!魔王様!
煌黒星
第一話=姫と魔王
エリハイア王国―ハイム暦36年魔月王日―
魔族の王宮で、事件が起きました。
「きゃあーーー!」
夜空を泳ぐ赤い月の下で、魔族の女が悲鳴を上げた。その女の前にあるのは死体です。死因は刃物による斬殺。死んだ魔族は鎧を装着していたはずなのに、彼が発見されたときはすでに裸になった。
そして、影でそれを見ている「人」が居た。
「さてと、そろそろ動くか。」
「人」はとある者を探している。それは、将来自分の夫に成るかもしれない魔族である。しかも普通の魔族ではなくーー
「魔王、ハーモス。アンタはどこに居るのやら……」
魔王である。
時間を遡って、彼女が出発する前に戻りましょう。
エリハイア王国―ハイム暦36年魔月姫日―
「チッ!ふざけやがって!」
俺は手紙を読んで、腹がたった。手紙は現魔王「ラルフ=ハーモス」の手書きと思う。最後のところで判子も押してあるから多分間違いない。ラルフ=ハーモスの字はこれで初めて見たけど。
手紙にはこう書いてあった。
「古の盟約によって、近いうちにお姫様を攫いに行く。」
ふざけるな!古の盟約?そんなもん聞いたことねぇぞ!しかも、なんて書いてるの?攫いに行くって?
「俺はそんなヤワな女じゃねぇぞ!」
ラルフ=ハーモス、どんなやつかはわからんが、こんなの書けるからきっと凄い魔王様だろうなー?でもやつが治めてるあの国は、最近、災いが多いらしいなー?それで俺を嫁入りさせることで自分の国だけ救うのか。最低だな。
「こうしては居られねぇ!」
「姫様、どちらへ!」
「うるせぇ!止めるんじゃねぇぞ?」
剣を抜き出して、メイドの首に当てて言った。
「今から魔王を殺しに行く。」
「ひぃ!し、しかし、お父上もこの件を承知して、私に手紙を渡すようにと!きっとなんらかの手をうったはずです!」
「知るか!あんなジジィになんの力がある!?」
剣を鞘に戻して、右手のひらの上に力を集中して……
「俺が信じるのは俺のこの力――「永劫なる劫火(エターナルインフェルノ)」だけだ。」
「……でしたら、どうか護衛を!」
「要らん!俺一人で十分!」
窓を開いて、外に飛び込もうとしたらメイドに引っ張られた。
「お待ちください!」
「お前も俺に逆らうつもりか?」
「い、いいえ、決してそんなつもりでは!」
「無駄な殺生はしたくない、手を離したら許す。さもないと……」
メイドの手に、自分の右手を当てた。
「あ、熱い!熱い!!」
メイドはすぐさまに手を離してくれた。その一瞬、俺は飛び出した。
「姫様!」
「心配すんな。」
メイドを、王宮を後ろにして、俺は言った。
「魔王の首が取れたら帰ってくる。」
今度は両足に力を集中して、全身の力で走った。目的地はたった一つ。ラルフ=ハーモスが統べる国――アリアの王宮だ。
………………
…………
……
エリハイア王国―ハイム暦36年魔月王日―
ふぅ、一日休憩もせずに走ったらさすがに疲れるな。でも……
「着いたぞ、ラルフ=ハーモス。アンタの嫁がアンタを殺しに来たぞ。」
途中で大ジャンプして、城下町から門を飛び越して直接王宮の一番上に跳んできた。さすが母上から授かったお力。母上の「至天なる劫火(ケルサスインフェルノ)」には程遠いが……まぁ、いずれ俺もそれになる。
「さてと、ここからはちょっと慎重に行かねばな……」
兵士を見つけて鎧を剝がなければな……
「何だ、さっきの音は。」
おっと、噂をすれば。
中から兵士の声がした。やつがここに足を運んだ瞬間……
「ッ!!」
「眠れ、永遠にな。」
結局そこまで我慢できなかった。やつがベランダに着く前に、俺が剣でやつの腰を斬った。もちろん力を使って、鎧の一部と壁を溶かしてやった。
急いで着替えたが、結局死体を処理することは出来なかった。俺が着替え終えた時に、メイドが来た。
「きゃあーーー!」
そして叫んだ。早くここから移動しないと。
敵の中で一番戦いたくないやつが居る。そいつは歴代魔王に直属する魔将軍「グランバール」だ。
至天なる冥地(ケルサスヘル)の使い手だ、エターナルレベルじゃあ到底敵わないだろう。
「さてと、そろそろ動くか。」
魔の波を避けながら、俺は魔王を探している。
しかし、さっきから王宮の中で変な雰囲気になってるのは何でだ?胸が凄く苦しい。何かに押されて、倒れてしまいそうだ。それと……
「懐かしい……?」
ふっとその言葉が口から零れ出た。
………………
…………
……
「なんだなんだ、魔将軍もこの程度か~?」
「くっ!何故です、何故貴方様が敵になるのです!」
「簡単さ!」
周りの空気が凝縮されて、「あれ」の拳に集まった。
魔将軍グランバールは必死で「あれ」と戦っている。目的さえ知らぬまま。そして、次の瞬間、「あれ」が告白した。
「面白そうだから、だ!」
「くっ!」
魔将軍グランバールは耐えた、「あれ」の鮮烈な一撃を。
「なあんだ、やればできるじゃないか、グラン君。」
しかし、グランバールは耐えたけど、地面に膝をつけてしまった。無理もない、相手はこの大陸で一二を争うほどの実力者――
「くっ!どうして!どうして我らが王『ラルフ=ハーモス』の国を滅ぼしに来たのですか!」
そして彼は、面を上げて、「あれ」を見て言った。
「貴方様……光明魔王様「アマドリ=スー」!どうしてですか!」
「はー……私の話聞いた?」
段々とグランバールに近づいて、歩くときは何も言わずに。
そして目の前に来たら、足を上げてグランバールの頭を蹴った。
「面白そうだからって、さっきも言わなかったっけ。なーそこの兵士さんよ。」
「ひっ!た、確かに言いました!」
「うむ!いい子だ。ご褒美、上げなくっちゃね。」
一旦グランバールから離れて、兵士に近づいて言った。
「ご褒美は何が欲しい?なーんでも、聞くよ?」
「で、では、もしよろしければ、こ、この国を、どうか、滅ぼさないでいただけませんか?」
「うーん、これはちょっと難しいですなー」
兵士の顔を見て、なにを思ったのだろうか。静かにこう言った。
「うん!じゃあ、ご褒美として……」
右手を兵士の兜に置き、残酷な一言を言い放った。
「死を、プレゼントしましょう。」
「ひっ!!た、たすk……!」
言い終える前に、彼は消えてしまった。跡も残さずに消えていった。まるで「最初からそこに居なかった」ように。
「うわひゃひゃひゃひゃ!!楽しい!楽しいぞぉぉ!!」
狂ったような笑い声を上げて、まだ気づいてないようだった。
そう、グランバールはすでに、逃げていったことに。
ラルフ様、どうか、どうかご無事で!と、逃げたグランバールは、それを想い、走った。
傷ついた体で、彼はひたすらに走る。自分の体はもう限界を突破してるのにも気にせずに、彼は現魔王ラルフの部屋を目指して走っている。
すべては、忠義のためにある。
………………
…………
……
「くっ!」
どういうことだ、なんで魔族どもがこうもうようよしてるの!?いくらここが魔王城でもおかしいだろう!どいつもこいつもフル武装で、殺気が立ってる。こんなのおかしいだろ!
「ここもダメか……ちっ、どうすれば……!」
やばっ!
タッタッタッと、早い足音が聞こえる。こちらに向かって走ってきてる。相手は誰かはわからんが、俺も大分消耗されたし、雑魚の相手をする暇はない!どうすれば……!
「うん?よし、ここで匿ってもらおう。」
扉を開けて、中へ入った。
中は暗くて、何も見えない。まるで、ここが闇の中みたいで。少しだけ恐怖を感じてしまった。我ながら恥ずかしいこと。
「炎よ、明るみを持って、我が身を照らせ。」
力を駆使して、体中の炎の力を増幅させ、周りを照らした。
そして、次の瞬間……
「あなたは……誰?」
「チッ!ここにも敵が……!くっ!」
目の前に来たのは、金髪と赤い眼を持つ、魔族の少年。体はさほど鍛えてられてないように見えるが、果たしてどうだろう。
しばらく隠れようと思ったが、まさかここにも魔族がいるとは!これは失策!仕方ない、こいつを……!
「ラルフ様!ご無事ですか!どうか、返事をください!」
この声は……!グランバール!?もうそこまで近づいたのか!しかし、ラルフの野郎を探してる?しかもかなり慌てるようだが……どういうことだ?
「あ、グランさん!僕は……!」
「しっ!黙っとけ、このガキが!」
「う、う!?むむむむ!?」
急いでやつの口を塞いだ。
これはいい機会だ。こいつを使って、グランバールの野郎に「ラルフに俺と結婚させるな!」って脅迫すれば……クックック!これは勝ったな。
「ラルフ様、ご無事ですか!」
扉を開けて、グランバールが部屋の中へ入ってきた。
うん?この部屋にラルフの野郎が居たのか?おかしい、この部屋の中にはこのガキしか居なかったが……
「き、貴様は何者だ!我らが王になんの用だ!」
「ぐらっ!ううむむむ!!」
「なんだと!?このガキがラルフというのか!」
「今すぐ王を放せ、賊が!」
剣を構えて、今すぐにでも切りかかってきそうなグランバール。しかし、体中が傷だらけ……さっき戦ったばかりで、負けた様子が見取られる。
かの有名な魔将軍を負かした者が居るとは……
てか、俺の顔覚えてない?何度も手合わせしたはずだけど……いや、目の前に血が出来てる。さては血のせいで俺の顔があんまり見えないんだな。
しかし、こいつがラルフと知ったらやることは一つだけ。こいつを殺すことだ。
だが……この場面だ、いくらやつが負けたばかりとはいえ、至天なる冥地(ケルサスヘル)の使い手だ。俺がやつらの王であるラルフを殺した瞬間を目撃したら、さすがに暴走するだろう……そうなったら俺の手に負えん、ここは一旦……
いや、それはダメだ。それは負けを認めるということだ。俺は負けねぇ、誰にも!だから一人で逃げるとかしねぇ!
「あばよ!グランバール!」
ガキを持ち上げて、窓を破って、外へ跳んだ。後ろからグランバールの罵声が聞こえるが、まぁ俺とは関係ないことだ。
もしこのガキを置いたまま逃げていったら俺の負けになる、だから殺さずに連れて帰る!そうすればやつらと交渉することもできるようになるはず。
「ぼ、僕をどこに連れて行くの!?お姉さん!」
「いいか、ガキ!」
走りながら、俺はガキに言った。
「今からアンタは俺の所有物だ!」
「えええええ!?いやだいやだ、帰してよ!グランさんが心配するでしょ!やだやだやだ!!」
「チッ!駄々こねてねぇで、こちらの身にもなってもらいたいものだ。」
それでも走り続けてる、ガキを連れて、俺はエリハイアに向けて、ひたすらに走る。体中が痛いんだが、そんなこったぁどうでもいい!走らねば俺も死ぬ!
………………
…………
……
姫プリスティンを追って、室外へ跳んだグランバールの後ろには、また、「あれ」がある。
「クックック……よくやったよ、プリスティンちゃん……さてと。」
「き、貴様!アマドリ!我らが王を帰せ!」
「おうおうおう、帰してもらいたいなら、力尽くして奪い返してみなよ。そう、お前達と割と友好だったあの国『エリハイア』に、な。」
「なに?」
「魔王ラルフを攫ったのは、エリハイア王国の第一王位継承者である、プリスティン=エリハイアだ!私とは関係ないねぇ!」
「お、お前がそう仕向けたんだろ!」
「それはどうだろう……クックック……」
「貴様!」
グランバールは怒りに狂った。怒りに身を任せて力を解放した。
「すべてを飲み込め!すべてを無に帰せ!これが、我が忠義!至天なる冥地(ケルサスヘル)!」
周りが暗くなって、地面に生えてる草も、木々も、花々も、さらにはこの魔王城も、少しつづ生気を失っていく。
闇の力、それはこの世でもっとも恐れられてる力。にも拘らず、グランバールは力を解放して、すべてを滅ぼうとしている。それも、たった一人の魔王を殺すためだけにしている。
「おうおうおう、怖い怖い。では、私の力も見せてあげようじゃないか。」
光明魔王は静かに呪文を唱え、手を掲げた。手から光があふれ出て、周りを照らし、命の光を再び灯した。
これがあれの力である「至天なる聖光(ケルサスディバイン)」と、グランバールは勘違いした。
あれの力は決してそれではないように、あれの手から別のものがあふれ出てきた。
「お前ごときに、私が負けると思ってんのか!」
そう言い放って、力が解放された。
すべての命が戻り、しかし生気はなく、生き人形みたいになった。それを見て、グランバールは絶句した。
「あ、貴方様は、まさか……!」
言い終える前に、アマドリ=スーの姿は消えていってしまった。その場に残されたのは、生き人形になってしまった魔族の兵士と、少しつづ正気を失っているグランバールだけだった。
(つづく)
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