第13話 みやびの興味と独占欲
翌日。みやびはいつにもまして行動的になっていた。それは、姉妹のいずみやあやのにとっては、引っ込み思案のみやびが活動的になっていいポイントでもあったが、急激な活動的で、不安に思うところもあった……
「あやの。みやびが活動的になってくれたのはいいけど……」
「うん。普段は大人しい子が、こうも活発に動かれると、気になって仕方ないわ。」
長期休暇も終盤に入り、それと同時に文化祭へのカウントダウンとなってるこの時期は、初管理責任者としてのみやびの手腕が試される場面でもあった。そのことから、妙に気負ってしまっている面もあり、そこをあさひがサポートする形になっていた。
「あさひさんは休んでていいんだけど……」
「いや、忙しそうにしているのを見ると、どうしてもゆっくりしている気分になれないのですが……」
「そ、そっかぁ。ごめんね。」
「みやびは、今回が初の代表だからね。余計に気になるんだと思う。」
「あやのさん。」
「わたしも、最初の頃は。心配でしょうがなかったからね……」
「えっ?あやねぇも?」
「あたしだって、そこまで完璧じゃないわよ。何度失敗したことか。ねぇ。いずみねぇ。」
「えぇ。あやのは、しょっちゅう失敗してたから、余計手がかかったわ。」
「『余計に手が』って。いずみねぇ。」
「実際。そうだったし。、まぁ。その分。よりしっかり者になったんだけどね。」
「なるほど。」
「だから。みやび、そこまで気負わなくていいからね。」
「う、うん。わかった。」
心配しあう姉妹たちは、似たもの同士だからか互いの気持ちを上手にサポートできていて、あさひが来る前と変わらない信頼関係が姉妹の中で作られていた。そんな特別なつながりを感じたあさひは、言いしれないもやもやした感じが胸を締め付けた……
『あれ?ちょっと、もやもやする……』
そんな会話をしていると、メイドのミラとララが部屋を訪ねてきた。そして、その手には、衣装が握りしめられていた。
「あれ?ミラ、ララ。どうしたのその服……」
「あの、これは……」
「お嬢様方が戻られると文化祭があるとのことで……」
「あるけど……まさか……」
「はい。文化祭の時に着て欲しいと思って……」
白百合島の筆頭メイドのふたりは、両手に抱えきれないほどの洋服を持ち、いずみたちの部屋を訪れていた。両手に抱えられた服の中には、フリーツのふんだんに使われたものや、明らかに布地が少ないものなどなど、趣味嗜好の偏った二人らしいコーディネートがなされていた。
「あの、これは。あさひさんに……」
「えっ!これを……」
あさひに手渡されたその服は、明らかにララ・ミラの趣味の男の『娘』の衣装だった。そして、もう一つ渡されたのは、ボーイッシュな服ではあるものの、ショートパンツにワイシャツという、いかにも男の『娘』がしそうな格好の服が用意されていた。
「えぇっ……」
「だめですか……」
「うぅぅぅん……」
どうするか迷っているあさひを他所に、ララ・ミラの味方をする人が一人だけいた。
「きっとにあうわよ!」
「あやのさん……」
「きっと似合うと思うわ。着るべきよ、というか……着て!」
自分の興味と合致したあやのは、鼻息を荒げて着て欲しいことを前面に惜しげもなく主張していた。その、あやのを含めた三人の主張に根負けするかのように、仕方なく首を縦に振ったあさひだった。
「わかりましたよ~まったく……」
「よかったわ。」
その様子を見ていたみやびは、服を持ったあさひの手をつかむと、廊下へ向かって歩き出した。
「えっ!みやび?」
「その服を持ってちょっと来て。」
「みやび?どうしたの?」
「いずみねぇたちは、待ってて。試着してくるから。」
「えぇっ。あたしも……」
「あやねぇもだめ。文化祭まで内緒。いずみねぇもね。」
「あたしもなの?」
それから、あさひとみやびは、廊下の隅にあるみやびの部屋へと一緒に入ることになった。あさひが先に入り、みやびが後から入る感じになった。
「みやび。ここで着替え……」
ガチャっ!
「えっ?」
後ろでにとびらのカギを閉めたみやび。それまで、ここまで積極的な行動をとったことを見たことがなかったあさひにとって、驚くと同時に戸惑っていた……
「カギを閉めた?」
「えっ。あっ!こ、これは。あたしが、どうこうというわけでなくね。その、そう。ねぇさんたちが入ってきたら、困るでしょ?」
「ま、まぁ……」
そんなみやびには、ひとつ。あさひに対して興味が生まれてきていた。それは、前日に感じた「あの」感覚だった……
『さ、触ったら。怒るかな?いや、怒らないよね。』
前日のビーチでの一件が、みやびに変化を与えていた。それまでは純粋に友達のような感覚で何の気なしに触れあっていたみやびだったが、男の子の格好をした上にいつもとは異なるアクシデントに遭遇したことで、よりあさひの事を意識してしまっていた。
「き、着替え手伝う?」
「えっ?」
みやびが着替えを手伝おうかと声をかけたときにはすでに、あさひは上着をすでに脱いで素肌が見えていた。
「あっ、ご、ごめん。」
「えっ。同じクラスだし、着替え見慣れてるんじゃ?」
「そ、それはそうだけど……」
みやびとあさひは、普段から学園で女の子として生活するときは、時々手伝ってくれていた。それは、もちろん着替えの時も……
『あれ。学園での着替えで、見慣れてるはずなんだけど。なんだろう……』
それは、あさひも同様で普通の男子であれば、女子に着替えを見られるのは苦手や恥ずかしいという感情を抱くはずが、あさひにはそれが全くなかった。そのためか……
「あさひ。触ってもいい?」
普通の学園に通うほかの男子であれば、図書室の姫とも呼ばれているみやびのこの発言に、ドキドキする『はず』があさひには『それ』がなかったことで……
「いいけど。」
と、こんな反応をしてしまっていた。そして、一歩づつ近づくみやびの中では、いつもの『触れ合い』とは異なっていた……
「汗臭いでしょ?運動はしていないけど……」
「ううん。大丈夫……」
『べたっとする感じじゃなくて、吸い付く感じ。学園にいたころは、こんなこと考えなかったのに……』
白百合島に来てからのみやびは、休暇明けに控えた文化祭の事で頭がいっぱいだったが、サポート役のあさひと接することが増えたことで、心に余裕が生まれ始めていた。その余裕のできた心の隙間に芽生え始めたのが、『異性への興味』だった。
『いままで、何回か触れる機会があったけど……こんなに気にしたことなかった……』
島へきて男の子の格好をすることで、あらためてあさひを『異性』として認識したことで、それまで普通にできていたことを違和感のように感じるようになってしまった。自分とは全く違う男らしい骨格と、それまでは気にしなかったあさひの匂い。同じ姉妹とは異なる『異性』を意識させるに十分なその香りは、文系のみやびの思考回路を刺激した。
『何を想像してるの。わたし……目の前にいるのは、あさひなのに、どうしてこんなに……』
「あの、みやび?」
「もう、少し……あっ!」
「あぶなっ!」
少し前に出ようとしたみやびは、足を滑らし前のめりになる。そこをタイミングよくあさひが支え、みやびはあさひの胸へと飛び込む形になっていた。
『!!!!』
手のひらだけでとは違い、両手全体と腕で感じるあさひの体は、まさしく『異性』を彷彿(ほうふつ)とさせるもので、より近くで感じるあさひの匂いは、より頭の奥を刺激する……
『……男の子だ……』
そんな抱き合う形になったあさひとみやびを知ってか知らでか、カギをかけたはずの扉がゆっくりと開き、そこには見慣れた二人がふたりの様子を驚いた表情で眺めていた。
「!?」
「ね、ねぇさん!こ、これは……」
「みやび……あなた、何してるの!?鍵まで閉めてこんなこと。」
「それは……」
半裸のあさひに抱き着いているみやびとそれを目撃してしまったあやのといずみのふたり。それまでのドキドキとした空気が一気に凍り付いた瞬間だった。
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