第4話 展覧会の音楽
驚かれたことに、驚いた。
第1話でも少しだけ書いたことだが、展覧会に出掛けて絵を見ていると、ずっとアタマの中で音楽が鳴り響いている。どんな曲が再生されるかわからない。止めようと思っても止まらない。しかも、同じ1曲をリピート、リピート、リピートだ。当然、絵画観賞にはジャマだと感じることもある。
昨年のこと、古い友人と久しぶりに会い、ついでに六本木(乃木坂)の国立新美術館で開催されていた東山魁夷展を観賞した。その日に再生された音楽は、ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』の第2楽章の一部だった。よく聴くチェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルハーモニーの演奏に違いない。
東山魁夷と『家路』のメロディーというのは、距離感が近いというか、個人的には違和感のない取り合わせだとは思う。が、もう少し気の利いた合わせ技にしてくれよ、と思わなくもなかった。まあ、鳴ってしまったものはしょうがない。なんせコントロール不能なのだ。BGMとしては悪くなかった。
いつものように、出口で音楽は止んだ。ひと休みのコーヒーを飲みながら、展覧会の音楽のことを友人に話すと、ひどく驚かれた。「えーっ、そんな話、聞いたことないよー」と言って、あきれ顔で笑っていた。私も驚いた。みんなにも、それぞれの音楽が聴こえているのかもしれないと思っていたから。
展覧会での「音楽脳」デビューは、遙か昔、遠い銀河系のどこかではなく(懲りないな、オレ)、東京の池袋、いまはなき西武美術館で開催されたムンクの版画展だった。ずいぶんな数のムンク、ムンク、ムンクに圧倒されて、若かったのにぐったりしたが、その間、なーんかアタマで音楽が鳴ってるなー、と思っていた。何の曲か忘れてしまったのが残念だ。
それからというもの、展覧会に行くたびに、必ず「音楽脳」が作動する。たぶん、展覧会の内容とアタマで鳴る音楽には関連性があるような気がする。風景画メインならベートーヴェンの『田園』とか。単純な連想が働くのではないか。
数年前のラファエル前派展のときは、これかよ、と苦笑いした。大大大好きなミレイの「オフィーリア」をいちばん楽しみにしていたのだが、アタマに再生された音楽は、ど真ん中の直球だった。フランスのロック歌手、ジョニー・アリディのアルバム『ハムレット』に収録されているオフィーリアの歌だ。ベタなこと、この上ない。
『ハムレット』は70年代に発売されたのではないか。持っているのはもちろんLP(2枚組)だが、実家に置いたままなので聴けない。もう何十年も忘れていた曲だったので、その意味では意外だった。よくまあ、記憶の奥の奥から引っ張ってきたものだ。
しかし。誰の展覧会だったか思い出せないが、西洋の画家だったのに、音楽が内山田洋とクールファイブの『二人の海峡』だったときもある。海の絵があったのだろうか。好きな曲ではあるが、面食らった。さすがに演歌はやめてほしい。
いま思えば、毎回、展覧会の音楽を記録しておけばよかったと思う。なかなか興味深いリストになったのではないだろうか。絵画鑑賞の妨げになることも多いが、次の展覧会の音楽は何だろうと、楽しみな気持ちもある。
次回は、展覧会ついでに、『展覧会の絵』の音楽について。
音楽脳 中村 離(はなれ) @hanare32
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