第63話 終わらぬ不穏

ある男は今日も管制塔から見える囚人の姿

を監視するだけの生活が来たることを予期して

勇者達一向の不思議な男を思い出しながら職場に入った。

しかし、耽る時間はどうやら今日は無いらしい。

重苦しい分厚い職員ドアの先には部下が待っていた


「特任看守長、緊急会議だそうです」


「だからその特任ってのは止してくれ、いつまで余所者扱いなんだ?」


冗談交じりに笑って見せながら男は部下から資料を受け取り、

歩きながら目を通す。

殺伐とした文字が並ぶ文章が、ズラッと並んだ思わずを目を背けたくなるものだ。

グラフに表された数字も人の命のものについてなのだから蛍光色の色分けが呪われているように見えてくる


「どうにも魔王軍との大戦の急な終結に問題が起こっているらしく.....」


「いつ終わるんだ、と誰もが暗くなってたってのに

 終わってみればこれだものな...」


元々様々な大陸の戦争中であった国の軍隊も集結させて人類の盾となる防衛軍を、

魔王の侵攻に追われて急遽作ったもので、目標が無くなってみると

事後処理というのはとてつもなく大きな課題を残していった。

平和とはほど遠い


「中立国の方ではこのまま戦争中の国の軍隊をこのまま返すことが、

 せっかくの団結が後にまた戦争で相まみえる敵になることを

 危惧しているようです。

 これを機に世界の全ての戦争が止まれば、ということだったのですが.....」


「それだけじゃないようだな、

 不鮮明な戦没者の情報やまだ残ってる魔族の残党について、

 火事場泥棒のように現れた反社会組織の存在の浮上に.....」


目に止まったのは謎の局地的に人々が忽然と局地的にいなくなった現象。

普通の魔法から受けたものとは思えない肌の変色をして

各地で発見された変死体の数々、

それはまさに最近見た勇者の連れで最近自身が連行してきた男とそっくりの肌をしている。


「暗い情報ばかりだな、会議ってだけでも嫌な気分になるのに.....」


どうしようもない泣き言に部下は苦笑で返すしかないようだ。

ただ、すぐに何かをハッと思い出して軽く男の肩を叩いた


「看守長、明るい情報ってのも大げさですけど新人が来たんですよ

 ほら、あそこにいるのが.....」


指を指した先には明らかに初々しさと陰険な職場には似つかわしくない溌剌とした

空気を運んでくれそうな青年が他の職員との会話をしながらそこにいた。


「おーい、カミーニちょっと来い」


部下が呼ぶと青年はすぐさま小走りでやってきた。

見た目通りの快活さだ


「こちら、特任看守長のルプー・ビデンスさんだ」


「今日からお世話になります、ユニ・カミーニです!

 宜しくお願い致します!」


はきはきした口調に大振りなお辞儀は若さを見せつけてくれるようだ。

自然と不愛想な男の顔にも笑みが浮かんだ


「おう、まあ見ての通りワルをこらしめるための陰気な場所だ。

 そう気張らず気楽にやってけや」


バシッと肩を叩いて男は新人の横を通り過ぎる。

青年の目からは実際の身長差以上に、その上司の男が大きく見えた


「俺は大仕事を消化しにいくから一人にしてくれ」


付き添っていこうとした部下を背中越しに制止して、

ひらひらと手を振って会議室へと向かうのだった。


「.....凄いオーラだ」


「世間知らずっぽいお前にも分かったか?」


遠ざかる大きな背を見ながらつい口を突いて出た独り言に先輩は嬉しそうに口を挟んだ。


「あの人本当にすげえんだぜ?

 元々、ここでずっとやってた人じゃないんだ。

 なのに看守長になったから、特任、看守長なんだよ」


「そうなんですか?」


「ああ、なんでも元はかの有名な軍事部隊である

 ゲッシュテールのそれも部隊長だったらしい」


その情報に新人の驚愕を乗せたドデカイ声が所内全体に鳴り響く頃には、

元英雄の男の心も曇らせる会議室のドアが開かれていた。

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