第36話 地下の親玉VS村人・地上戦 最5

「ドラアアアッッ!!」



体重の乗った一撃は浮遊魔法の圧を超えていた。


咄嗟の腕一本の防御では危うく下半身が埋まるところだった



「フンッ!!」



続けざまに思い切り振り上げた足でのシュートを喰らう、


ボールになったように飛んでいく俺に魔女は追随してくる



あれだけの巨体で何故ここまで機敏に動けるのか



今まで隠していたのか、


それとも......



先ほどの一撃で無力化出来なかったことも引っ掛かりながら


戦況は敵のペースとなる。



ブンブンと唸る太い手足の猛攻は


受けるたびに身体が震える



奴の贅肉も大いに踊っている




広い街道を一直線に受け身を取りながら


大広間に着くと


枝分かれした道の先に逃げる人々の姿が見えた。



これ以上は後退出来ない...!



「ハアッ!!」



両手でやっと奴の片腕を止めた。


本当に規格外のデカさだ



「す、少しはやるようだね!


 アレ、を受けておきながら!!」



激しく呼吸する魔女と力の押し合いをしながら


気に掛かる箇所を問う



「アレとは、さっきの光線のことか!?


 一体、何の効果があるんだ!!」



息も絶え絶え奴はせせら笑った、


それが今は強がって見えたが



「さっきのはアタイの必勝の型!


 この身体を持ってすれば巨獣さえ狩れる奥義さね!


 勿論お前のような人間相手にも絶大なる脅威となる技だ!」



自慢げに繰り出すもう片方のパンチをギリギリのところで


片足で止めた。



状態は一本足でのアンバランスなものになった



「くっ......!」


「アンタの最期も近くなってきたところで良いことを教えてやろう!」



今のところ体勢的に窮地であっても


命の危険は感じない。



だが大魔女はすでに勝ち誇り始めていた



「さっきのは光線はアタイの身体強化と更に、


 敵の能力減退がセットになったものさ!


 そこいらの魔法使いには出来ない併用≪マデュアル≫がアタイにはある!!」




体勢が折り曲がりつつも


話はしっかりと聞こえていた。



道理で飛躍的に脂肪に包まれた体で軽々と動けるわけだ



ついさっきのアメルの姉弟子が言っていたような魔法の名称とも


合点がいって一部は納得した。



しかし......



もう片方、の魔法の効果は表れているのだろうか?



「へっ......分かるよ、アンタのパワーが下がっているのがねぇ!


 アタイの能力≪ステータス≫アップは時間を経るごとに弱まっちまうが、


 そっちの能力≪ステータス≫ダウンは時間を経るごとに強まるのさ!!」



そんな必死な形相の脅しがあってから数十秒足らずで


力の押し合いの形成は変わり始めた。



遂に俺の浮いた片足が地に着いたのだ




つまり



「おい、さっき言ったことは本当なのか?


 段々こっちが楽な姿勢にさせてもらっちまってるが?」


「!!」



目の前の巨女のダイエットに付き合わされているかのような


口ぶりが出るのは無論、


敵である俺どころか術者の方が弱まり始めたからだ



「ど、どうなってる!? こんなことが......!!」


「真面目に敵の能力を下げる魔法を練習しておくんだったな」


「アタイは失敗していないはずだ!!」



プライドと勝敗に掛けて、


奴は最後の力を振り絞るかのように力を強めてきた




それを待っていたとばかりに




「そもそも、魔王の後継者なんかになろうとするのが失敗だったな」




押し返すのではなく敢えてこちらの力を瞬時に抜いた。




すると今まで壁に寄りかかっているような存在が消えて


無様に大魔女は前のめりになってきた




そして迫ってくるのは



ノーガードの土手っ腹、だ




「オラァ!!」




大きく踏み出してかましたのは


たった一撃、


風穴を開けるかのような肘打ち≪エルボー≫だ




「グボァァ!!」



大きな口からは噴火のように唾が撒き散らされ、


次第に上体が倒れて


完全に俺に厚い熱い脂肪の塊が覆い被さってきた。



「とんだ...ドブネズミだなァ!」



苛立ちげに片腕一本で巨体を放り投げると


硬い地面に打ち付けられて何度かバウンドした



「ふぅ......いっちょ上がり」




そう呟くのを合図のように次々と転移の魔法や


遠くに馬の駆ける音をさせながら役員共がやってきた。




その中には



「大手柄だな」




俺の能力を見破った、あの男も当然のように背後にいた


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