第20話 教会

「はいはい、すいませ~ん」



とりあえず声を掛けつつ、

人の合間を縫うようにギリギリぶつからない程度に


猛スピードでグングンとアメルの背中に迫る。



俺が行き交う人に失礼しながらかなりの速さで近付いて来ていることに


あっちも気付くと、


路地裏の方に逃げて行く。



人気の無い所に行ってくれるならこちらも好都合だと考えつつ


追跡しながら道の端に寄って、


彼女が大通りから姿を消したのを見て


急いで入っていったと思われる脇道を走った。



遠慮なくスピードを出せるようになった俺は


広々とした空間を久しぶりにダッシュ出来る喜びを感じながら、


壁に垂直になりながら走ったりして上機嫌で速度を上げた。



そうしてそろそろアメルを視界に捉えたならば


一瞬の内に追い付いて捕まえてミッション成功か、


と思いきや


見失ってからいつまで経っても


小さい背格好の魔法使いは見当たらない。



その後も念入りに辺りを探して回ったが、


透明になる魔法でも掛けたかのように


忽然と彼女の姿が消えてしまった。



気付けば、日はだいぶ高くなってしまっている



いつまでも今のアイリスを放って置くのも良くないと考えた俺は


仕方なく捜索を断念した。




屋根から屋根へとジャンプして先ほどの門に戻りながら、


いなくなってしまったペットが

ひょっこり帰ってきて来るようにアメルが戻ることを


願うことしか出来なかった。



広くどこまでも似た作りのこの街で


土地勘が無いために若干迷いながらも、


やっとアイリスを高い位置から見つけた。



驚かせないように小道に下りてから彼女の元に駆け寄ると


心配になるくらい顔色が良くなかった。



「すいません」



声を掛けるとハッと我に返った感じで俺を見た。



「あの子は......」


「はい、取り逃してしまいました。


 路地裏で見失ってしまって......」



申し訳なく思って下を見ていた自分に


彼女は励ますように肩に手を置いた。



「仕方がないです。


 アメルはこの街・ポピーラには詳しいですから......


 きっと隠れ道か何かの存在を知っていたのでしょう」



そう語る彼女はいつもより弱々しげだ。


俺の肩に置いた手で寄りかかってくるように


自力で立っているのも辛そうだ。



自分のしてしまったことに相当、罪悪感を募らせ


参ってしまっているのだろう



「......とりあえず、どこかで休みましょう」


「しかし、ここを動いてしまっては......」


「大丈夫です。


 俺が意地でも探し出します!


 でも、そのためには分かりやすい合流地点にアナタにいて貰わないと


 気が気でなくなっちゃいますから......ね?」



その説得にうな垂れるようにアイリスが頷いたのを見て


彼女を支えるようにして丁度いい場所を探し始めた。




完全に沈鬱なムードになってしまった勇者を伴っていると、


周りの活気と明るさがより映えて見えた。



未だ慣れない都会の空気を改めて新鮮に感じつつ、


キョロキョロと休憩場所を探していると




「あ......」



何か思いついたかのような声を出した彼女の横顔を見る。


その視線の先に大きな教会の塔が見えた。



「ああ、あそこにしますか?」



先に意図を汲み取って聞くとアイリスは同意した。



「はい、少しの間お邪魔することにしましょう......


 それに、何か得られるかもしれません」



今までの弱気な感じから一転、ハッキリとした口調で


意味深な発言をする彼女の通りに


立派で荘厳な教会へと進路を決めた。


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