第21話 祈願

見えていた教会の一角は時計台のようにそびえ立ち、


高潔な俗世離れした出で立ちよりかは


花形をモチーフとした親しみあのある大窓が象徴となっている


周りの街並みに溶け込んだ建造物となっていた。



その庶民的な造りに伴って


頻繁に町人が出入りしている様子があり、


開放的なものとなっているようで丁度良い場所が見つかった。



そうしてアイリスを連れて中に入っていくと


外身より屋内が広く感じられた。



高さは口が開くくらいに見上げなければ天井が見えず、


幅も横に長い椅子が多く揃えられるくらいにスペースがある。



シスターや神父が一般人と話している辺り、


村人出身者からも親近感の持てる場所であると思えた。



自分の村には教会なんか無かったために


言伝でしか知らなかったが、


ほとんどの教会というものは

聖職者以外の立ち入りを禁止していると聞いていたので


意外に感じた。



そんな風に感心して観察に耽っているとアイリスの声が聞こえた。



「このまま、祭壇まで行きましょう」



聞き覚えの無い箇所だが彼女の指さす方向に


いかにもな場所があってたので直進した。



「あそこに行ってどうするんです?


 もう座っていた方が......」


「いえ、そのまま私が動かずに休みっぱなしという訳にもいきません。


 これから先このようなことは何度も起こるようになるでしょう、


 その時情けないほどに私が衰弱したとしても


 アナタたちの足を引っ張るだけの存在になるわけにはいきませんから......」



やはり考え過ぎなどではなく、


現に彼女は弱ってしまっている。


アメルに愛想を尽かされてしまったのでないか、


という不安感から受ける気力の減退もあるのだろうが


実質的にドンドンと失われる力の速度と量が高まっているようだ。



「ふっ......本当に情けない話です......


 強がって鍛錬になる、だなんて思い上がって


 そのまま甲冑姿で来てしまいましたが


 どうやら......もう体が堪えてきたみたいですね」



自嘲するかのような彼女の笑みを見て、


何とも言えない悲しい気持ちになった。



それでもアイリスを励まそうと言葉を探した



「まあ、その......タイミングが良かったじゃないですか、


 アイツが駄々こねて一旦出発が中断になって。


 このまま出発してアナタがキツくなって鎧を着ていられなくなったら、


 俺が代わりに装備することになってたかもしれませんよ?」



冗談めかして言ったことを彼女は小さく笑ってくれた。



そうしてやっと入り口から祭壇とやらの厳かで


祈りを捧げるのにピッタリだと見受けられる場所に着くと、


すぐさま彼女は俺の支えを離れて跪いた。


予想通り、ここで何かをお祈りするようだ



アメルが無事見つかることの願掛けか、それとも......



彼女にしか出来ないことがあるのか



これからどの様なことが起こるのか身構えて


アイリスを見守っていると、


周りもこちらの様子に気付いたのか


合わせるように静かになった。



するとすぐに


その変化は続けて起こった。



彼女を柔らかく包むような靄が


眩い光を放ちながら発生し始めたのであった

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