第15話 一転して

「おい! 皆ぁ! 新入りを歓迎してやろうじゃねえか!」



大柄のリーダー格と思われる男の一声にワラワラと囚人たちが周りを取り囲む。


どいつここいつも下品な笑い声をさせて俺を見てくる



血色の悪い肌を見て笑っているのか、


元々頭がイかれちまってるのか判別が着かない。



「よう、新入り!


 俺達が遊んでやるよ。


 何をして遊びたいか好きに言いな!」



言ってることがわんぱく坊主でも見た目は厳ついために


どう答えても危険な方向にしか行かなそうだ。



ならばいっそ相手をしてやろうじゃないか、


暇つぶしでやった力の加減修行の成果を試す時だ。



「掛かって来いよ、どうせ人を殴りたくて仕方ないんだろ?」


「......? 殴り合いごっこがしたいのか?」


「なんだって良い、さあどっからでも良いぞ?」



あくまで子供みたいにとぼけやがって、


お前みたいなタンクトップ着てる筋肉ムキムキのガキがいるものか



たっぷりジャスチャーでも挑発してやると


元気そうにリーダーが突っ込んで来る。



「うおおおッッ!」



頭を突き出してまるで牛だ。


軽く避けて足だけ出して置くと勝手に引っ掛かってすっ転んだ



それがあまりにも滑稽で周りも俺も笑った。



「よーし、今度は俺だ!」



そして次に腕をグルグル回しながら向かって来る奴は


服を両手で引っ張って宙で回すように投げた。



そのままそいつは中庭への階段を転げていく。



「俺も行くぞ!」


「俺もだ!」



そうしていなしていくとドンドンと数が増えて


一斉に向かってくるようになった。



本当に大人に遊んでもらっているような

子供のように向かってくるので


キリがない。



それも数十人を相手にしながら倒したはずの奴が土や砂の跡を服に着けながら


走って来るなど終わりが見えない。



しかしそれは裏を返せば


俺の力加減がオーバーでなくなっていることが分かる。



それに迫る奴らを相手にすればするほど力の使い方が段々と分かってきた。


囚人達がタフガイなこともあるだろうが


それは間違いない。



そんなこんなで人間相手に投げ飛ばしをひたすらに行うこと何十分。


本当に遊んでいるように面白いこと囚人どもを投げていると


ブザーのようなものが鳴って全員の動きが止まった。



「楽しい昼休みの時間も終わりです。


 皆さん、安全に元の場所に戻りましょう」



終わりを告げる放送に誰もが反抗する事無く、


談笑しながら皆中庭から室内に帰っていく。



犯罪者たちにここまで行儀よく言うことを聞かせるようにするために、


どのような躾が行われているか恐ろしくなってきた。



そうして突っ立ているとリーダー男が俺の肩をバンと叩いた。



「お前強いんだな! ビックリしたぞ!」


「あ、ああ......」



随分とフレンドリーなことに驚いていると俺を連れてきた猫背男を始め


色んな見るも恐ろしい見た目の男達に褒め称えられながら、


自分の部屋に戻った。



「ほんじゃ、明日も遊んでくれよな~!」



そんな友達のようなこと言って別れた男たちが去って行くと、


また静かな時間が訪れた。



「......なるほど」



何となく独り言ちた。


明確に何が本当に納得がいったわけでもないが、


それとなく昼休みとやらの時間が平和であったのを思い出す。



元はどんな悪人かも分からないような外観な奴らだったが、


どんな人間にも童心があることを


しみじみと理解した気がした。



それがどうやって引き出されたのか



経緯は謎だが


本当に更生プログラムの効果の一つなら大きな成果を上げていると感じる。



気付くと机には本が置かれている。


手に取って見てみると、ちょっとした小説のようだ



故郷にはあまり本が無かったので興味が出た。



その後は本を読みながら昼食を食べつつ、


いつのまにか夕日が差してきてランプが勝手につく頃には


ランチのトレイが消えて少ない夕食が届いていた。



それもそこそこに食べ終えて本を続けて読んでいると


眠くなってきたので寝た。



そんな風に、


ぶち込まれた当初はあんなにも不安であったのに


就寝前には存外穏やかな気分で、牢屋で過ごす初日を終えたのだった。

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