ジゲンノズレ

綿麻きぬ

ビン

 聞こえてますか? 私の声は。



 私は少しズレている。何て言うかズレている。


 俗に言う「浮いている」とは全然違うと思う。他者から見ても浮いてはいない。まぁ、1mm位浮いているかも知れないが。


 ただ、この言い方が自分の中でしっくりは来ない。自分のこの現状を表すとすると「次元がズレている」これがぴったりである。


 そのズレは多分少しのものだから、次元が被っている部分が多い。


 なので、共通の事象が起こる。


 だか見えているもの、感じてるものが違う。


 皆と同じものが共有できない。そんなことが多くある。


 ただ、それを他人に話しても通じない。声が届かないのだ。


 それが苦しくもあり、個性だと思っている。


 そんな時、ネットにとある言葉を見かけた。


『何かズレていると悩んでいるあなたへ』


 そんな書き出しから始まっていた。


 内容は自分の思いを手紙に書き、ビンの中に入れるだけ。そして一晩寝かせる。すると中に返答が入っている。そういう話だった。


 早速私は試してみることにした。


 内容はさっき話したことだ。自分の存在する次元についてのこと。


 手紙を書く時は半分すがるような思いで書き、もう半分は信じない思いで書いた。


 せっかくだから少しおしゃれなビンに入れて机の上に置いて、布団を被る。


 その日はスッと寝れた。そんな気がする。


 翌朝、ビンの中には手紙が入ってた。


『ジゲンノズレヲカクニンシマシタ。シュウセイニトリカカリマス』


 私はこの文の意味が分からなかった。てっきり、私がいる次元が他の人と同じ次元になるものだと思っていた。


 ただ、それは私の思い違いだと言うことが分かり始める。


 私は少しずつ自分の影が薄くなっている気がし始めた。それは物理的にも、精神的にも。


 影が薄くなるのは自分を保っていたはずの輪郭が薄くなっていくような、そんな感覚。


 まるで溶けていく感じ。私がいた次元は溶けて、皆の次元に吸収される気分。


 なんというか、安心感がある。お母さんのお腹にいるような。


 その安心感は私を眠らせた。




 それから幾日か経ったある日の朝。


 ビンが机の上に置いてあった。少しオシャレなビンだ。


 中に手紙が入ってる。


『シュウセイガカンリョウシマシタ。コレカラノシアワセナジンセイヲタノシンデクダサイ』


 私は何のことか全く分からなかった。


 紙は気味が悪いので捨てることにしたが、ビンは何故か残したくなった。昔と繋がれる唯一の物な気がしたから。


 私は今、声が届いている。ズレなど生じてない。地に足が着いている。


 ヨイ人生が送れている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジゲンノズレ 綿麻きぬ @wataasa_kinu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ