第二十一話
今日だけ我慢すれば長期休みに入る。今日だけ、今日だけ我慢すれば……。
「アリーヤ様、エドマンド様が迎えに来ました」
「ひゃいっ!」
ついにこの時が来た。ついに……。やっぱり私には学園は向いていないのかもしれない。いや、でも今日だけ耐えれば大丈夫。私はエドマンド様のエスコートで馬車に乗る。
「……アリーヤ、そなたは私の事、愛しているか?」
「えっ……えっと、その……」
何故だろう。『愛している』と言えない。ただ一言、『愛している』と言えば済むはずなのに。だけど何故か『愛している』と聞いた瞬間、私の脳裏にはハルが思い浮かんだ。何故だかは分からないけど。
「……分かった、もう良い。この事は気にするな」
深い溜め息と共に吐き出されたセリフ。エドマンド様の方を見ると、少し寂しそうな表情をしていた。……エドマンド様には申し訳無い事をした。こんな私、エドマンド様には似合わない。そんな事が頭の中をぐるぐると回っていた。
従者の「着きました」と言う声を後ろに私はエドマンド様のエスコートで馬車を降りる。教室まで送ってもらうと、私は自分の席に着いた。
「アリーヤ様、おはよう」
ドキッ
何故か胸がドキドキしてきた。私はそのドキドキを無理矢理押さえ付けると、フワリと微笑んで挨拶をする。
「お、おはよう。ハル」
顔が赤くなるのが自分でも分かる。私は咄嗟に魔術書を取り出して、下を向いて読むふりをする。
「え、ア、アリーヤ様……?」
「ご、ごめんなさい。何でも無いわ」
「皆様、おはようございます。それでは授業を始めます」
丁度良いタイミングでビアンカ先生が入ってきた。私は思わずにこりと笑ってしまう。ありがとう、ビアンカ先生。
その時だった。教室のドアがバン! と開き、黒っぽい服装のゴツい男の人が入ってきたのは。そしてつかつかと教室の中へ入ってハルの目の前へと立った。
「貴方様がハルージ……いや、ハル様ですね。私と共に来て下さい」
「ま、待って下さい! 何故彼を連れていくのです!? 彼を離して下さいましっ!」
私は無駄にがたいのいい男の人に言い寄る。キッと睨み付けると、男の人は少し驚いたような顔をした。
「……そなたはマノグレーネ公爵令嬢か。良いだろう。そなたも来い」
男の人はそう言うと、私とハルを抱えた。そして瞬間魔法の呪文を唱えた。先程まで見えていた景色が、まるで暗闇に浚われたように真っ暗になった。
◇◇◇◇◇
……ここはどこだろうか。気が付くと教室ではなく、ある場所の部屋らしき場所にいた。ある場所って言ってもどこか分からないけど。
部屋の中は白と水色に統一されていて、清潔感溢れる部屋となっていた。天蓋付きのベッドに綺麗な装飾の時計や椅子や机。女の子なら誰もが一度は憧れる部屋だろう。しかもどの家具も高級だ。
それにしても一緒にいたハルはどこにいるのだろうか。ハルを探そう、そう思いドアに手を掛けてみたが、ドアには鍵が掛かっていた。どうしよう。これじゃあハルを探しに行けない。私は途方に暮れるしかなかった。私は思わず膝を抱えて俯く。涙が出てきそうだった。
私はいつも役に立てない。皆に迷惑を掛けるばかりだ。私、何やってんだろ……。
◇◇◇◇◇
「……ハル様、気分はどうですか」
先程、僕達をここに連れてきたゴツい男の人が僕の顔色を窺う。僕がギロリ、と睨めつけるとゆっくりと口を開いた。
「アリーヤ様は何処にいる……」
だが、その男は澄まし顔で首を振る。焦れったく思うのは僕だけだろうか。
「その質問にはお答えできません」
じゃあどんな質問には答えれるんだよ。僕は焦るばかりだ。アリーヤ様を探さなきゃ。アリーヤ様はきっと不安がっているだろう。早く、早く迎えに行かなきゃ。
だけど、アリーヤ様を迎えに行くにはまずこの男をどうにかしなきゃいけない。
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