第十八話
あの時の僕の選択は間違えていたかもしれない。だけど、僕は後悔していないよ。
あの人から君を奪い去ったことは今でも後悔していないよ。
◇◇◇◇◇
「……なぁ、ハル。何故図書館に入るだけでお金が掛かるのだ?」
僕はエドマンド様を一瞥して問いに答える為に息を吸う。
「図書館には貴重な本もあるので入るとき、お金を払わないといけないのですよ。他の理由は、僕も知りません」
僕はそれだけ言うとケフェティの実のことを書かれている本を探す。エドマンド様には別のフロアを探してもらうように頼んだ。
「ケフェティの実、ケフェティの実………あ、あった」
僕はその本を出して読み始める。だが、あまり重要なことは書かれていなかった。
僕は次の本を取り出して読み始めた。すると、 とあるページのところで何者かが書き足したような跡があった。
「これは……エドマンド様! これを見て下さい!」
「ハル、どうかしたのか?」
僕の掛け声に慌てて来るエドマンド様。僕はそんなエドマンド様に例の文を見せた。
「ここ、これ見て。『この世で見たことの無いような美しいケフェティの実は、地下深くに眠っている』って書いてある」
僕達は顔を見合わせてうん、と頷き急いで本をしまい、図書館を出る。
「……だが地下深くってドブ? みたいなところだよな」
「うん。行こう!」
◇◇◇◇◇
「……やはり臭うな」
エドマンド様が顔を少ししかめながら言う。確かにかなり臭う。だがそんなことは言ってられない。僕達は前に進むしか無いのだから。
「……少し暗いな。明かりを点けよう。『シャイルーゼ』」
エドマンド様は上位白魔法の照明魔法を使った。すると周りは普段と同じ明るさになった。僕はエドマンド様にお礼を言う為に口を開いた。
「エドマンド様、ありがと……うわっ!」
バシャーン!
僕は悲鳴と共に水の中へ落ちた。不味いことになった。僕は、僕は泳げない。その時だった。
「ハルー!!」
僕の視界にエドマンド様が現れたのは。
「ゲホッゴホッゲホッ」
僕は思わず咳き込む。エドマンド様に支えてもらって少し安心する僕。エドマンド様は僕を抱えながらゆっくりと泳ぐ。
やっと水から這い出る。
「ゲホッゲホッ」
「は、ハル……大丈夫か?」
腕で顔を拭きながらエドマンド様が聞いてくる。僕は咳き込みながらも頷く。今ので体力がかなり奪われた気がする。これからケフェティの実を採りに行かなきゃいけないのに無駄な体力を使ってしまった。
「エドマンド様、ありがとうございます」
「あぁ……は、ハル! 前を見てみろ!」
エドマンド様は頷いていたかと思うと、急に声を上げた。僕は眉を潜めながらも言われた通りにした。するとそこにあったのは………
重々しい感じがする扉だった。
「これ……」
「あぁ」
僕の言いたいことが分かったらしいエドマンド様が頷く。僕達は顔を見合わせると扉の前に行く。そして、ゆっくり扉を回すとガチャリ、と音がして扉が開いた。
奥には瑠璃色、銀、金、黄金色に輝いている木があった。まるで、以前アリーヤ様が言っていた『ホーライノタマノエダ』のようだ。アリーヤ様が言っていた色と見事に一致している。
僕はあれが『ケフェティの実』だと確信する。ゆっくりと『ケフェティの実』に近付く僕。そしてケフェティの実の前で立ち止まった。
「ハル……これがケフェティの実か?」
「多分」
僕はエドマンド様に返事をするとケフェティの実の前で跪いた。エドマンド様が驚いているのが感じとれる。僕は視線で同じことをするようにエドマンド様を促す。
すると何かを悟ったエドマンド様は僕と同じことをしてくれた。
【アミトゥーゼ(アミトゥーゼの神よ、) リルーゼ(我の) ロッテ(大切な者を) キラ(救う為に) ケフェティゼール(ケフェティの実を) リ(採る) アレイクゼ(ことを) ゾーイソルティミ(お許し下さい。)】
僕はこの世ではもう使われていないという『精霊語』で言った。そっちの方が伝わる気がして。
精霊語は何故か生まれたときから知っていた。今までで使ったことは無かったが、この為に僕は精霊語を知っていたのだと思う。
僕はそっと立ち上がってケフェティの実を幾つか採る。
「エドマンド様、僕達の国に帰ろう」
僕はそう言って歩き始めた。最後に、
【リンビゥ(ありがとう)】
と言うのを忘れずに。
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