第十三話

 ヴィクトリア様は私達に今までのことを全て話してくれた。一個一個丁寧に、分かりやすく。




「えっと……つまり、こういうことかしら。ヴィクトリア様の前世は男性で事故死してしまった。そして、気が付いたらこの乙女ゲームの世界にいたと。」




 私はヴィクトリア様から聞いたことを口に出して整理する。




「えぇ、そう言うことですわ。そしてエドマンド様を攻略しようと思ったんですけど……上手くいきませんでした。」




 にこりと微笑んで言うヴィクトリア様。少しカチンと来た。けど私はこう見えても公爵令嬢。笑みを絶やさない。




「……ヴィクトリア様、口を慎んで下さいませ。」




 そう言って更ににこりと笑って見せる私。だが、きっと目は笑っていないと思う。隣にいるハルとエドマンド様がぎょっとした顔をしたから。


 でも仕方無いでしょう?




「あら、ごめん遊ばせ。……何て、あのさ。」




「ヴィクトリア、どうかしたのか?」




 ヴィクトリア様の言葉に反応するエドマンド様。エドマンド様って優しいのね……。




「今さらだけど言葉遣い変えていい? お嬢様言葉って疲れんだよ。」




 ヴィクトリア様が勢いよく伸びをしながら言う。流石前世が男だけある。




「えぇ……勿論、良いわ」




 私はヴィクトリア様の方を見て言う。すると、ヴィクトリア様は令嬢らしく無い、けれどスカッとした感じで笑った。


 それは嘘が混じっていない笑顔で素敵だった。




「アリーヤ様、ありがとな! あーあ、エドマンド様が駄目ならいっそのことアリーヤを攻略しちゃおっかなー。」




 そう言ってゆっくりと私の方に手を延ばすヴィクトリア様。後もう少しでヴィクトリア様の右手が私の左頬に触れそう、というところで私の体は宙に浮いた。


 ……浮いた? ってえぇ!?




 よく周りを見てみると、ハルとエドマンド様が私を抱き上げていた。って二人で私を抱き上げるって凄くない?




「アリーヤ様は駄目。」




「ヴィクトリア、すまない。そなたでもアリーヤは譲れないな。」




 二人共ニコニコと笑って言う。が、やはり目は笑っていない。流石と言うべきなのか……。


 まぁ、兎に角。ヴィクトリア様を避けることが出来たのだから二人には感謝しないとね。




「はぁー、良いじゃん。アリーヤ様を貰っても。同じ女同士なんだし。」




 ヴィクトリア様が不貞腐(ふてくされ)気味に言う。だが、ハルが瞬時に言う。




「駄目。いくら女同士って言っても前世は男なんだから。それにヴィクトリア様にアリーヤ様を預けると大変なことになりそう。」




「大変なことになりそうって……。何だよ。二人してわたくしを獣みたいに扱う。」




 頬をプーッと膨らませて言うヴィクトリア様。と言うか、一人称は『わたくし』のままなのね。




「さてと、そろそろヴィクトリア様の処分を決めましょうか。」




 そう言いながらにこりと頬笑む私。ヴィクトリア様の顔がサーッとどんどん青くなって行く。思わず、フフと笑ってしまった。すると今度は訳が分からない、と言うような顔をした。




「えっと……あの、どうか死刑だけは止めてくれ! 俺、まだ死にたくない……!」




 クスッと、笑いが漏れてしまった。だって、ヴィクトリア様のあの悲痛な顔を見たら。私、何も『死刑』と言っていないのに。と言うか、一人称『俺』になっているし。




「私、死刑とは言っていないけど?」




 すると、次はキョトンとしたような顔をした。


 ……プッ、ヴィクトリア様ころころ表情が変わりすぎ。




「ヴィクトリア様の処分についてはエドマンド様とハルと一緒に考えます。だけど、死刑は絶対にあり得ません。」




 私がヴィクトリア様を見て言うと、ヴィクトリア様は心底安心した、というに溜め息を突いた。


 ……でも、そう言ったは良いがヴィクトリア様の処分はどうしようか。ハルとエドマンド様の方をチラリと見たら、二人共我関せず、と言う感じだった。


 思わず私は溜め息を突いてしまう。




「……決めました。ヴィクトリア様の処分は、この図書館の方の本の整理です。」




「えぇ!?」




 ヴィクトリア様が驚いたような声を出した。って驚き過ぎ。私はまたしても声に出して笑ってしまう。




「それでは、やり方を教えます。ヴィクトリア様、準備はよろしいでしょうか?」




「……う、ん。あのさ、ずっと思ってたんだけど。アリーヤ様はずっとこのままエドマンド様と婚約していて良いのか?」




 ヴィクトリア様の真剣な言葉。それは、私の頭に重くのし掛かった。

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