マイフレンド・フォーエバー

第1話 親友の病気


―――


「蒼ちゃ~ん!」

「うわっ!?何や、廉。いきなり抱きつくなや!」

「ええやん。俺と蒼ちゃんの仲やろ?」

「どういう仲やねん……」

「俺は蒼ちゃんを愛してんねんで?」

「正直言うとな……俺もお前が好きなんや。」

「え゙!?」

「……冗談に決まってるやろ。何、本気にしとんねん。」

「何や……ビックリしたわ~…」

 廉がへなへなと座り込む。俺は口端を上げて見下ろした。



 おっと、自己紹介がまだだった!

 俺は霧島蒼太。関西生まれだが親の仕事の都合で中学の時に都会に引っ越してきた。

 言葉も違うし文化も違うから中々馴染めずにいたけど偶然にも俺と同じ境遇の奴がクラスにいて、すぐに仲良くなったんだ。


 それが今目の前で蹲っている霧島廉。ちなみに名字は同じだけど親戚関係ではないらしい。赤の他人。


 二人共中学からサッカー部に入っていて、サッカーの名門の高校に入学して今年から二年生。サッカー部のエース(自称)の俺と、実力はそこそこの親友兼ペットの廉の会話はいつもこんな感じ。

 関西人の血が騒ぐのか顔を合わせれば漫才のような掛け合いが始まり、それが凄く楽しいんだな、これが。


 まぁ、本人には口が裂けても言えないが。



「何一人で喋っとるん?」

「い、いや……別に何でもない。」

「何や。気になるやないか。正直に言えや。」

「お前の事考えとった。……って言ったらどないする?」

「……蒼ちゃん!!」

「あっはっは!」



 俺はこいつとこんな風に遊ぶのが好きだ。からかいがいがあるし。


 けど、そんなささやかな幸せが音を立てて崩れていったのは、数ヵ月後の事やった……




 数ヵ月後――


 その日も教室で俺は廉で遊んどった。


「酷いわ、蒼ちゃん!」

「何がやねん。」

「だって俺というものがありながら、他の女と喋ってたやん、今。」

「そんなん俺の勝手やろ?」

「蒼ちゃん~俺の愛に応えてくれ~!」

「嫌や。」

「何で!?」

「何でもや!」

 廉の嘘泣きに苦笑しながら言う。あぁ、やっぱりおもろいわ。


 クラスの他の皆も最初は呆れ返っていたけど、一年も経てば慣れたもんで……


「なぁ、霧島。……あ、廉の方ね。お前さぁ、毎日同じ事やってて飽きないの?」

「飽きる訳ないやん!俺が蒼ちゃんに。一生愛し続けるで。」

「一生は止め~や、一生は。俺やって普通の人生送りたいわ。」

「だよな~」

 苦笑いしながら俺に振り向くこいつは、俺らがここに入学して最初に出来た友達。相原薫。明るくて頼りになる奴。


「ほら、廉。サッカーボールだよ。ほらほら。」

 犬にするみたいに廉をボールで誘ってる……


「あー!待ってや~」

「…………」

 引っ掛かる方も問題やろな。


「廉のお守りは大変や。」

 肩を叩きながらため息混じりに言った時、女子がバーッと俺の周りを取り囲んだ。


「何や。」

「蒼太君が珍しく一人だったから、寂しいんじゃないかって思って。」

「来なくてもいいわ。頼んでへんし。」

「えー酷~い!せっかくあたし達が来たのに……」

「そうそう。本当は蒼太君も廉君に付きまとわれるの、嫌なんじゃないかって思ってさ。そうでしょ?いつも迷惑そうにしてるじゃん。」

「は?俺が廉を嫌がっとる?迷惑そう?俺らの事何も知らんくせに勝手な事言うなや!」

「えっと……」

「廉は俺の親友や。それ以上あいつの事悪く言ったら許さへんで!」

「こ、恐~い……行こ行こ。」

 女子達は俺の剣幕にビビって去っていった。


「蒼ちゃ~ん、今の聞いとったで。格好良かったわ~」

「聞いてたんか!?あのな、あいつらが言った事は気にすんっ……」

「バッチリ聞こえてましたよ~あんな大声やったんや。聞きたくなくても聞こえてもうて。」

 そう言いながらサッカーボールでリフティングしながら笑顔で近づいてきた。

「……そっか。何や恥ずかしいわぁ、もう。」

 わざとらしく照れたフリをして目を逸らす。そしてため息をついた。


 廉はいつもこうだ。どういう訳か俺と廉がクラスの人気を二分しているらしく、しかもたちの悪い事に俺のファンは廉の事を良く思っていないのだ。

 廉もその事を重々承知しているにも関わらず、争い事や陰口が嫌いな性格やからいつもこうして誤魔化して無かった事にするんだ。


 俺はこいつの為なら例え全面戦争になろうとも戦う覚悟でいるのに、肝心の廉がこんな調子やから不完全燃焼で終わってしまうのだった。


「……うっ!」

 その時、廉がボールを取り落とした。見ると顔をしかめて苦しそうに呻いている。

 胸元をぎゅっと抑えて力なくその場に倒れた。


「おい!どうしたんや!?」

「……大丈夫や。心配せんといて。」

「大丈夫な訳ないやろ!今すぐ病院行くで。救急車呼ぶより直接行った方が早い。」

「俺は大丈夫やって……」

「いいからほら!俺の背中につかまれ。行くぞ!」


 俺はまだ苦しんでいる廉をおぶって、病院へと急いだ。



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