第9話 隣の席の朝比奈さん
無事テストが終わって数日が経った。
テストの結果は予定通りというか波乱もなく、一部を除き平均より少し高い程度で着地した。予想通りの点数で、可もなく不可もなく、平凡な成績。これからの受験のことを考えると、もうちょっと勉強を頑張らなくてはいけないなとは思うが、なかなか真面目になりきれない俺であった。
朝比奈さんはいつも通り優秀な成績。本人は謙遜していたがクラスで一番の成績だと思う。学年でも上位なのは間違いない。見習いたいものである。
「私としては家で勉強あまりしてないって言ってるのに、良い成績が取れる月見里君が妬ましい」
「それは言わないお約束」
なのに、なぜか俺は朝比奈さんにジト目で見られている。
朝の五分の会話。朝比奈さんテストの成績が良かったね、おめでとうと讃えたら、これである。
なぜ、成績優秀者が凡人である俺を嫉妬しているのだろうか。美少女に見られるのは照れ恥ずかしいが、朝比奈さんの視線に恋愛要素が皆無なことが悲しい。ズルをしていないのに、まるで優遇されて結果をだしたかのような人として見られているような、臨時収入があって財布に余裕がある人を妬むような、そんな感情で見られている気がする。
「実は家で頑張ってったんだ。白鳥のように水面下ではバタバタ足掻いてたり?」
とりあえず、言い訳をしてみた。
家で全く勉強してなかったわけではないので嘘をついているわけではない。
「東郷君と、今季のアニメや携帯のゲーム? の話をしてたよね?」
「オォ……アウチ」
あれは携帯ゲームの運営が悪い。
テスト前なのにイベントを始めるからだ。それも限定イベントを。次回復刻するのが来年になりそうなので、今を逃すと痛いのだ。それにゲームのスタミナを自然回復分、消費するだけだからあまり時間がかからないし(自分を懸命に誤魔化す)。
「今のスマホゲームってオート操作できるからね……」
「じとー。テスト期間中に出た漫画の話もしてたよね」
「ま、漫画って急いで読めば十分以内で読めたりしちゃうからね。き、気分転換にはいいよね?」
「じとじとー。アニメの話題もしてたよね?」
「い、今のアニメって見逃してもネットで再放送をやってたりするから、便利だよね?」
「じーーーっ」
「……ごめんなさい」
何かよくわからないけど、謝らないといけない雰囲気になった。
自分でも最後のは言い訳になってないと思う。次回予告も含めガッツリ三十分アニメを視聴したわけで。
「しかし、よく俺のこと知ってるね」
「隣の席だもん。東郷君と喋っているの聞こえちゃうから。あーテスト期間なのに勉強していないなー、テスト大丈夫なのかなぁって心配したの」
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
「なのに、月見里君ケロッと平均点取っちゃうもの。同じように遊んでいた東郷君は赤点ギリギリなのに」
「ははっ、アイツは駄目ですね。叱っておきます」
「むしろ世の中人的に、月見里君を駄目って言う人が多いと思う」
「えぇぇぇ……」
「東郷君も怒ってたよね。一人だけいい点数でって」
「完全に八つ当たりだけどね」
俺は別に誠一郎を娯楽の道に誘ってはいない。あっちから話を振ってきたので答えただけだ。アニメの話題にしても漫画にしても、聞かれたから答えただけで。見ろとは言ってない。面白ければ面白いと答え、読みたいなら漫画を貸そうかと言っただけだ。
むしろ、漫画を貸すときにはちゃんと勉強もしろよと忠告したぐらいだ。
それで恨まれても困ると言うのが正直なところ。
「朝比奈さんは、最近困ったことあった?」
「え? 私?」
「うん」
「どうしたの、突然?」
話を変えようと振ったのだが、気になっていたのは本当。
朝比奈さんは鳩が豆鉄砲を食ったようにポカンと俺を見る。
「いや、テスト前は険しい顔? 何かを我慢してたような顔をしてたから心配してたんだ」
テスト前、朝比奈さんの頭上の数字は6と7を行き来していた。他の人も比較的数字が高かったが、それでも4くらい。朝比奈さんだけが頭一つ高い。
この数字がなんなのか未だにわからないが、数字が低い人ほど、ストレスが低い傾向があることがわかった。雲ひとつない快晴の天気のような、そんな明るさがある。逆に数字が高い場合、時折目が血走っていたり、何かを我慢して鬱屈している人が多い気がする。
朝比奈さんは成績優秀者だ。俺には及びにつかないプレッシャーやら、ストレスがあるのだろう。だが、クラスでも平凡な成績の俺が勉強休んだらと言っても、なんの効果もないだろう。
だから、わかってはいても何も手出しができなかった。
「んー特に何もないかなぁ……」
考えるように口元に手を当てて考える朝比奈さん。横顔からは本当に悩みなんてなさそうである。テスト自体がストレスだったのだろうか。それが終わったから、険しい顔をしなくなった。筋が通る話である。
今はテスト前に比べ、数字は下がっているが他の人より若干だが高い。心配である。
「我慢……我慢……あっ!」
視線を上にして考えていた朝比奈さんだが、何かを思いつたようで声が大きくなった。
「あった?」
「な、ないっ!!」
いや、絶対思いついたような気がするんですけど。
「全然ないよ!! うん!」
だが、朝比奈さんは顔を赤くするだけで答えてはくれなかった。
それに呼応するように数字が振動しているのですが。
意味がわからない。
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