6章

01 約束の時

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 日曜日。ついに渚と会う日である。

 バスから降りて、待ち合わせ場所へ向けてゆっくりと歩いている優美。今日も今日で姉からコーディネートしてもらった服装である。しかし、前回の修助とのデートのときとは違い、スキニーデニムにパーカーとラフ目な格好だった。


(一応、待ち合わせ15分前には着くわね)

 ――俺のときは時間になっても来なかったし、大丈夫だろう。

(まあ、念のため探してみるわ)


 休日ともあって、街中はカップルや家族連れなどで活気にあふれていた。

 人ごみの中に埋もれているかもしれない渚を探す。


(いないわね……)


 コートの右のポケットからスマートフォンを取り出し、ボタンを押して時間を確認する。


 ――時間にルーズな女だったよ。少なくとも俺と付き合ってたころは……。


 ぎゅっ

 寒風に冷え切っていた左手が何者かに握られ、ぬくもりが伝わってきた。


(まさか)


 恐る恐る握られた手に目を落とす。そこには笑みに彩られた渚が、上目遣いでこちらを見つめていた。少しパーマをかけたのか、サラサラとした黒髪のポニーテールが解かれ、全体的にふわっとしていた。つけまつ毛をつけ、口紅も薄く唇に同化するようなものをつけている。

 ファッションもまったく違う。アクアチェックのマフラーにベージュのボアブルゾン、足首あたりまで伸びる黒いスカートに黒いブーツ、と、フェミニンスタイルに服装を固めてきていることから、エスコートされる気満々なのだろう。


 ――俺のときは男みたいな格好だったのに、優美の前ではこうなるのか……。


 渚の変わりようにただただ驚くしかない豪篤。人間、好きな人ができれば、自分以外の人間もちゃんと変われるもんだと改めて思った。


「おはよう、優美」

「お、おはよう……渚ちゃん」


 優美は口角を機械的に上げるが、目まで笑う余裕などない。全身から冷や汗が一気に噴き出しそうなほど、心中では肝を冷やしているからだ。


「水臭いなぁ、あたしたちの仲じゃん。渚でいいよ渚で!」

「それじゃ……渚」

「もっとはっきり言ってよ~!」


 周りの目も気になってきた優美は、次の1回で終わらせようとのどを軽く鳴らした。


「渚」


 いつもとはやや低めなひと言に、渚の頬に赤みが帯びてきた。


「低い声がすっごくセクシーでいいね! この声で何人もの人を殺してきたのやら!」


 渚の興奮した口調を、苦み走った笑みで受け流す。


「とりあえず、移動しない?」

「そうだね、行こ行こ」


 握っていた手を離したかと思えば、渚は優美の腕に自分の腕を回した。


「ふふふ、これでばっちし♪」

「あははは……」


 優美は乾いた笑い声を上げるしかなかった。

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