05 萌と成実への取材

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 次の日からは早速、開店したと同時に北川と大山がやって来た。

 客がいないことを利用して、ボックス席でひとりひとり長めの雑談形式の取材を行っている。今はちょうど萌が受けていた。


「佇まいはどこで身につけたものですか!?」

「大和撫子ですもの。物心つく前から身につけておりますの」

「その男心を捉えて離さず、雑味を幾度ともなく濾過して澄み渡るような美声は、いかにして会得したものなのでしょうか?」

「この声は天性のものです」

「何か趣味やマイブーム的なものはありますか!?」

「手先が器用ですので手芸や縫い物をしています。常連さんと進捗を確認しがてら見せあったりもしていますのよ」

「萌さんは古来より現存する大和撫子像そのものではありますが、ぶしつけ承知の上でひとつ謝罪でもせねばならない質問がございますが、よろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょう」

「非の打ち所を見つけることも困難極まりなく、ただの今お召しになってなさるメイド服は、天下無敵の様相であり、お似合いと存じます。しかし存ぜぬのは、何ゆえを持ちましてメイドの格好をされて働いているのでしょうか? 着物をお召しになることは思考案件として、脳内に差し込まれませんでした?」

「自宅では着物で過ごしております。着物も着物でよいものではございますが、さすがに四六時中着物では飽きはきますし、窮屈である点も否めませんわ」

「ちなみに、メイドというものはどこで知りました!?」

「わたくしの元学友に、メイド文化が発達した街に通っている方がおります。その方といっしょにそこへ行った際、なんだか雷を体を突き抜けた感覚がしましたの」

「つまり、メイド服で働きたい! と思ったと!」

「そのとおりでございますわ。こうしてわたくしのような者であっても、奉仕させていただく機会があり、今はとても幸せを噛みしめておりますの」




 * * *




「成実さんはメイド歴何年ですか!?」

「んーっとね、もうちょっと4年目になるよね~」

「メイドになるきっかけはあったんですか!?」

「うん、あったよ~。あたしのキュート全開でおしゃまなところもあるかわいさを、学校以外のみんなに知ってもらいたくなってね。ちょうどここのバイトを見つけたんだよね。かわいい格好もできて、かわいいあたしも披露できるなんて、この若さにして最上級の喜びを知ってしまったんだよ。筋肉くん♡」


 成実のかわいさにメロメロになりそうになりつつも、大山は努めて冷静に質問を続ける。


「中性的で髪形はショートカット、ついでに幼顔だと普段の生活で少年に間違えられてわずらわしさはありません!?」

「あたしはあたしですよー。ありのままのかわいさをみなさんにお届けしてるだけなので。普段の生活が男の子に見えちゃうのは、その人は所詮、見た目だけでしか見てないってことなんだよね~。だから、ぜーんぜん気にしてないよ♡ ……ねぇねぇ、逆に質問なんだけど、女装メイドだとしたらなんだって言うのかな~?」


 北川は首をちぎれんばかり横に振った。


「いやはやとんでももとんでもでございません。ただ、わたくしの心の隅のあまのじゃく的な要素を持つ成分がささやいてきたのでつい魔がさしたのです。万が一――いや、兆が一の奇跡で成実さんが男で女装をしていたとしたら、それはもうとんでもないビッグバンだと。これまたし失礼ながら申し上げますが、ここまでの薄化粧でご自身の美と可憐さを表現できる女性など、この世の中にごく少数の割合しかおりません。女性でごく少数であるに、男だとさらに数は絞られてきます。いくら男も美を追求する時代に変遷したとはいえども、持って生まれたものの素質や、ホルモンバランスの均衡具合によって女性のような美を世に顕現できるのか? いえ、なかなかどうしてできるものではありません。カラスの色が白に変化した地球であれば、成実さんが女装したメイドかもしれません。そこで本来の姿が男であるなら、思春期の荒波に揉まれてこの肌艶をキープもしくは高め続け、可憐な大人になり切れないメイドを演出している――それはそう! 現代の奇跡そのものなのです!」


 空気が凍る。

 北川という変態はトンデモ妄想とはいえ、近からず遠からず正解を導き出した。隣の大山が正気を疑うような目を北川に向けているが、成実は途中から心臓に汗をかく思いでうつむいていた。おそるおそる北川をうかがう。北川本人は、言いたいことを一気に言えてドヤ顔でアイスの溶け切ったコーラフロートをストローで吸っている。


「ふ~~~ん……? とりあえず、あたしのかわいさは規格外ってことでおーけー?」

「その認識でおーけーでございます。こんな可憐で愛らしい貴女が、男なわけありませんからね」

「そうだよ~。ホントにもう失礼しちゃうんだからー。めっだよ。めっ」

「だはははははは、申し訳ございません。わたくしめときましたら、こと女性に関しては、カオスな脳内で宇宙規模で妄想するのが、ルーチンワークとなっておりますゆえ。……ほら、大山。お前もやってもらいなさい。成実さん、駄文と没文を量産しないおまじないでもあればかけてやってくださいな」

「いいよー♪ 昔の人もー、今の人もー、文章に携わるすべての人が、0.1%でも大山ちゃんに力を分けてくれますよーに!」




 * * *

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