act.1 明星晴彦:01


 西暦二〇○○年代四月半ば。東京都のある場所に童洛(どうらく)市という街がある。その街には最近話題の人物がいた。

「『神出鬼没のヒーロー・シャドーバトラー 銀行強盗を確保』ねえ」

シャドーバトラー。正義の戦士を名乗り童洛市に起きる悪事を暴き阻止する人物。オリジナルのヒーロースーツとヘルメット型のマスクで素性は不明。警視庁の差し金と噂があるが詳細は一切誰も知らない。

「『一説では十代後半の少年とも言われている。』まさか」

ある日の朝、夫人はスマートフォンでシャドーバトラーのニュースを読んでいた。

「ホントに高校生だったらすごくしっかりした子なんでしょうねー。うちのとは大違い」

夫人の横でバタバタと身支度をしている男子高校生の息子が一人いる。

「母さん!なんで起こしてくれなかったんだよ!遅刻する!」

「なんども起こしたわよ。でも起きなかったじゃない」

明星晴彦(あきほしはるひこ)。この春高校生になった少年。今日が十六歳の誕生日である。

「いってきまーす!」

晴彦は家を出た。その慌てように夫人は、母は呆れている。

「もう、高校生なんだからしっかりしなさいっての。私もそろそろ仕事しないと」

晴彦の母が仕事の準備をし出すとつけっぱなしのテレビから古代遺跡のニュースが流れる。

『先週水曜日、六甲山にて新たにオルヴィ・テラ文明の古文書らしき書籍が発見されました。専門家によりますとオルヴィ・テラ文明は紀元前でもっとも古い地球最古の文明と言われ今回の発見は歴史的なものとされ――』

まだ誰も知るよしはなかった。この発見が地球の未来を左右するということを……







 童洛第一高校。晴彦の通う街の真ん中にある学校。制服は男子は学ランで女子は藍色のセーラー服に青いリボン。遅刻ギリギリで教室に入った晴彦は疲れて机に俯せになる。

「遅刻したら連続五回になることになってたなー」

「笑うなよ」

晴彦の親友、佐々木拓也は俯せの状態を見て笑う。

「おうい、今日お前と俺課題取りに行く係だぜ」

「ええー」

拓也は晴彦を起こして連れて行く。とぼとぼと廊下を歩くはめになる。

「めんどくさー」

「しゃーないだろ。働け怠け者」

拓也は晴彦を起こす。

「おい、佐々木くん困ってるだろう」

一人の女の声が晴彦の耳に入る。

「もう、うるさいなぁ」

晴彦が顔を上げるとその女が目の前にいた。

大場セイラ。晴彦のクラスメイト。祖父がイギリス人ゆえに一まとめにお団子になっている金髪は地毛である。

「早く行けよ」

「わ、わかったよ」

セイラに指摘されると晴彦は立ち上がり拓也を連れて、教室を出る。

「どうしたよ晴彦」

「何が?」

不機嫌そうに歩く晴彦が拓也は気になる。

「大場さんと話してるとなんかお前ツンツンにならないか?」

「別に。アイツと話してるとなんかもやもやするんだよ」

「もやもや?」

「うん。何か大事なこと忘れてる気分になるんだよ」

晴彦は何故かセイラが苦手だった。彼女の顔を見るたびに心に何かがひっかかる感覚を感じるからだ。

「アイツとどこかで会った気がするんだよ……」

「幼稚園か小学校が同じとか?」

「あの金髪の頭の同級生なんていなかっただろ?」

「そっかー」

拓也とは幼稚園からの幼馴染みである。

「会ったことあるってどんな感じ?」

「どんな感じって言われても……なんか他人とは思えないんだよ。入学してからまともな会話してないけど」

「はい?」

晴彦のかかえるモヤモヤを拓也は理解出来なかった。

「それよりさ、シャドーバトラーすごくない? また大活躍したって」

「話題変えるな!」

いきなり話題を変える会話スタイルも理解出来なかった。





 キーンコーンカーンコーン

童洛第一高校のチャイムが響く。帰宅部の生徒達は数名正門をくぐる。

「じゃあなー」

「また明日ー」

その中に晴彦もいる。

「拓也今日委員会かぁ。一緒にゲーセン行きたかったのに」

寄り道して帰りたかったが、今日は誕生日。両親と妹が祝ってくれるから帰るしかない。

「今日で十六……俺四月生まれだから入学していきなりだよ……」

春の始めに迎える自分の誕生日。いつの間にか十六回目が来たのだ。

「……これ結局なんだろう」

晴彦は右手の掌にある痣(あざ)を見る。彼の掌には珍しい痣が生まれつきあった。火傷のようにも見える赤い痣。この痣との付き合いも十六年になるのだ。

「母さんは生まれた時からあったって言ってたけど、こういうのってなんで出来るんだろ? お腹の中で怪我するってあんまり聞かないし」

一人で帰るのは退屈。普段はどうでもいいことを考えてしまう。

シャドーバトラーって普段何してるんだろう。銀行強盗捕まえるなんて普通出来ないって。俺も一回くらいはあんな風になってみたいなぁ。とぼんやり考える。

ほとんど何も考えずただ普通の人生を送ってきてもう十六年。人生が変わるような変化なんて何も無かった。そんな日々がこれからも続くんだと信じていた。

「……くん」

「え?」

この女性のような声を聞くまでは……

「はるひこくん……」

「え?」

とぼとぼと歩いていると晴彦の耳に聞き覚えのない声が入る。

「晴彦くん……」

「だから誰だよ!」

声のするほうを見ると、公園を囲む植え込みを見つける。

「誰か隠れてるの?」

晴彦は植え込みの中を探る。そこで見つけたのは、

「へ?」

可愛らしい子犬だ。犬種はポメラニアンに見える。

「さっき俺を呼んだのって誰?」

晴彦は冗談半分で子犬に訪ねてみる。

「私よ」

「誰だよ……え?」

晴彦は耳を疑う。

「私が呼んだのよ、晴彦くん」

その子犬ははっきりとした日本語を話したのだ。

「……い、犬が喋った!!」

晴彦は異常性を感じ、叫ぶ。

「こら! 静かにして!!」

子犬は驚かれても冷静だった。晴彦は思わず座り込む。

「お、お前なんなんだ……」

座って数分経過すると、晴彦はまた子犬に問う。

「私はバニラ」

バニラを名乗る人語を話す子犬は植え込みの中から出てくる。

「ある戦士達を探している使いの者よ」

「使いの者? てかなんでお前話せるの?」

晴彦は徐々に冷静になるとバニラに問う。

「これは仮の姿なの」

ぽんっと弾くような音が響くとバニラの姿が変わる。

「!?」

晴彦の前に黒い髪に赤いワンピースの二十歳前後の女性が現れる。

「わああああ!!」

晴彦は更に驚く。

「驚かないでよ。うるさいわねぇ。近所迷惑だし」

「驚くわ! 正常な反応だよ!」

子犬が日本語を話したり子犬が女性に変わったり、何がなんだかわからない晴彦。

「で、俺に何か?」

もう少し突っ込みを続けたいが晴彦は諦めた。

「……晴彦くん、貴方に大事な話があるの」

バニラは真剣な顔つきになる。

「貴方には使命があるの。私達の王子を見つけ出し、彼と共に戦うという使命が」

「使命?」

晴彦は何を言われいるのかわからないが女性の姿になったバニラの発言が何故か嘘とは思えなかった。

「貴方はね、大昔の王国を守っていた騎士達の生まれ変わりなの」

「? 俺は普通の男子高校生だよ? そんなことあるわけないって」

バニラの発言が嘘や出任せだと思えないが晴彦にはお伽噺のようにしか思えなかった。

「あんまり驚かないわね」

「だってバニラが犬から女になった時点でもう突っ込み疲れたもん」

晴彦は諦めたように話を続けさせる。

「ところで、さっきの戦うって何と?」

「それはね、」

バニラが言いかけると、

「見つけたぞ。オルヴィ・テラの者」

誰かが話を遮る。

「!?」

その誰かを見たバニラはそれを睨む。

晴彦はそれを見て驚く。

それは、その男は見たこともない青い鎧で全身を包んでいた。

「『回路維持元装置』のありか、教えてもらうぞ」

顔も鎧に覆われているが男がバニラを睨んでいることは晴彦も気付いた。

「バニラ、コイツは何? なんの話しているんだ?」

「晴彦くん、コイツは私達の敵よ」

「敵?」

バニラは前に出て晴彦を庇うように立つ。

「あんたの相手してる場合じゃないのよ、リチュオル」

リチュオルと呼ばれた男の右腕は一瞬光り、大きな鎌のような刃物に変わる。

「じゃあどんな場合だ」

「逃げる場合よ!」

バニラは晴彦の腕を掴んで走り出す。

「バニラ!?」

「アイツとは関わらないほうがいいわよ!」

バニラに腕を引かれる晴彦。

「逃げるなっての」

リチュオルは鎌に変わった右腕を振る。すると、

ズシャア!!

バニラと晴彦の足元が割れる。

「うあああ! 何!?」

「あいつが鎌降ったら降った先にあるものが切れるの!」

バニラは状況を説明する。

「逃げろってこういうこと!?」

晴彦は足を必死に動かしバニラと逃げる。

「殺しはしねえよ。回路維持元装置のありかを言うまではな!」

リチュオルも鎌を振りながら二人を追いかける。彼が鎌を降ると、地面や周辺の建物が切り刻まれる。

周囲にいる住人達はそれに驚き、悲鳴を上げる。

「おおい! キリがないって!! アイツしつこいよ!」

晴彦は思わず止まる。

「俺達がこれ以上走ったら周りに迷惑かかるよ。なんかうまいこと撒けないかな。逃げる以外で」

「そ、そうね……」

バニラははっとして周囲を見る。

自分達が走り続ければ地面や周囲の建物がもっと崩れ住人達がもっと混乱する。

二人が走るのを止めると、リチュオルも一定距離で止まる。

「晴彦くん、右手を見せて」

「? こう?」

晴彦は右手を、痣がある掌をバニラに見せる。

「……やっぱり。貴方は私が探している戦士の生まれ変わりの一人よ」

バニラは睨むように痣を見る。

「これを使って」

バニラは晴彦に懐中時計のようなものを渡す。

「何これ? 時計?」

「これを開いて針を両方十二時にセットして、『リミッター解除』って叫んで」

「ど、どうして?」

晴彦はバニラの申し出の意味がわからなかった。

「いいからやって!」

「わ、わかった」

晴彦はわけのわからないまま、指示を受け取る。

懐中時計の針を十二時に、叫ぶ。

「リミッター解除!!」

『チェンジ・オープンライツ!』

晴彦が叫ぶと懐中時計から音声が流れる。そして彼の全身が光に包まれる。

「!?」

リチュオルはそれを見て驚く。そして確信する。

「やっぱりアイツ、オルヴィ・テラの騎士の一人か」

光が止むと、晴彦の姿は変わっていた。

赤い戦闘服に頭全体を隠すマスク。右手には剣(つるぎ)。

「な、なんだこれ!? シャドーバトラーみたい」

彼自身も驚いていた。

「晴彦くん、貴方で間違いないわね……」

「バニラ?」

バニラは女性の姿から子犬の姿になる。

「今日から貴方はバトラーライツの一人、ライツ01になったのよ!」

「ライツ01……」

自分の変身した姿に与えられた名前に晴彦は不思議な感覚を覚える。

十六歳の誕生日。明星晴彦の運命がゆっくり動き出そうとしていた。



Continue.






〇登場人物紹介〇


明星晴彦(あきほしはるひこ)/ライツ01(ゼロワン)

好きなもの:カツ丼、アニメ、ゲームセンター


学ラン着る時は下に赤いTシャツを見せるように着てます。髪色は黒茶色でちょいぼさぼさで短いです

当初名前は明星春好あきおはるよしになる予定でしたが、ロゴとか悪いし苗字で「あきお」はないなと考え今になります。典型的バカで怠け者で純粋な主人公です








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