Ⅰ-ⅩⅡ 蘇る記憶 ③
涼太君が庶務担当として総務部へやってきた日。
部署のみんなで涼太君の歓迎会を開くことになった。
ひーちゃんが間違えて涼太君のお酒を飲んでしまって大変なことになっちゃったけど、最終的に私と涼太君だけでもう少しだけ飲んでから帰ろうということになった。
涼太君が行きつけているバーに連れて行ってもらって、そこで一杯お話をした。
そして私は終電を逃した。
正直やってしまったと思った。
だって、涼太君とは久しぶりで話が盛り上がったんだから仕方ないよね。
ただ、涼太君は気付いてないみたいだけど。
すると涼太君が軽く笑いながら私に言った。
「じゃあ俺の家に泊まる?」
一瞬自分の耳を疑った。
でもこのチャンスは逃してはいけない。
私は間髪入れずに、涼太君の提案に食いついた。
男はオオカミだというけど、涼太君は大丈夫だって信じてる。
最悪の最悪は涼太君になら……エフンエフン。
そこから電車に揺られて涼太君の家へ。
「お、おじゃまします」
生まれ始めて男の人の家へあがるので、緊張で少し声が震える。
「ど、どうぞ」
涼太君は苦笑いで私を招き入れてくれた。
そこから部屋の中へ案内され、寝室らしき部屋へ通される。
涼太君一人暮らしって言ってたし、そこまで部屋の中は広くない。
「お茶ぐらいしかないけど、用意するから適当に座ってよ」
私は涼太君に促され、返事をしてベッドに腰かける。
ささやかな弾力が返ってきて、気持ちいい。
私は涼太君を見送ると、さてとベッドの下の捜索を開始する。
何故かって? それはもちろん涼太君が公序良俗を持っていないかを確認するためだ。
見つけてどうするのかって? 見つけた場合は涼太君もろとも灰燼にする予定だ。
「な、なにしてるのかなぁ五葉さん?」
「ひゃっ!」
急に話しかけられたので小さく悲鳴をあげてしまう。
ゆっくりと振り向くと、そこにはお茶を持った涼太君が立っていた。
「べ、べべべべ別にエッチな本とか探してた訳じゃないから!」
テンパってしまって思わずそう答える。
多分、こういうのを墓穴を掘るって言うんだよね。
涼太君もこちらを疑っている目で見てくるので、間違いなくバレている。
ここは、一つ冷静になって……。
「だって……。男性の部屋に来たらまずそうするのが礼儀だって部長が言ってたから……」
思い切り落ち込むフリをして、部長のせいにする。
だって、部長前言ってたもん。私嘘ついてないもん。
少しの間、沈黙が二人の間に流れ、やれやれと言った表情で涼太君が言った。
「とりあえずお茶入れてきたから。少しゆっくりしたら先にお風呂入ってきていいからね」
優しい。そういうところが昔から好きです。
跳ね上がりそうになる心を抑えて、私は涼太君の隣に座り、お茶をいただいた。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
涼太君に言われた通り、私が先にお風呂へ。
その後、涼太君がお風呂に入ったのを見計らって私は今度は本棚を漁った。
まだ懲りないのかって? 今度は違う理由です!
私は、部屋に入った時に、目端でとらえていたアルバムらしきものを手に取る。
それをゆっくりとめくると、昔の涼太君の写真が出てきた。
実は正直言うと、この涼太君はあの時の涼太君なのかという疑問を私は持っていた。
分かりやすく言うと、同姓同名の別人なんじゃないかと。
だって、私の事見ても気づかないし、名前言ってもピンと来てないし……。
でも、出てくる写真は私の記憶の中の涼太君ばかり。
私は間違ってなかったと確信した。やっぱり涼太君が鈍感なだけなんだ。ふんっ!
私はそのアルバムを戻し、他にもアルバムとかがないかなーと探していると、足音がしてピタッととまる。
ギギギと首をそちらにむけると、苦虫を嚙み潰したような顔をして立っている涼太君。
えっと、これは、その、ですね――。
今度は無言で私は本棚の前から引っぺがされた。
強引な涼太君も悪くな……何でもないです。
「とりあえずもう寝る? 俺は床で寝るから五葉さんはベッド使っていいよ」
涼太君が私に優しい言葉をかけてくれる。
私は一緒にベッドで寝ても……はい、いい加減自重します。
「……。もう少しだけお話ししていいかな」
先ほどの写真を見て、確信を持った私は、鈍感な涼太君に私が誰なのかを分からせるべくそう提案する。
断られるかなとも思ったけれど、涼太君は少し恥ずかしそうにうなずいた。どうしたんだろう?
そして私は涼太君に向けて自分の……というか、二人の過去の話を始める。
「そりゃまぁ初対面でいきなり家に連れていかれたら困惑もするだろうね」
うんうん、と頷きながら涼太君は笑う。
これでもまだ気づかないの? えっと、本当に本物だよね。
また疑心暗鬼に陥る私。落ち着け、さっき確認したじゃん。
「私名前が碧依でしょ。その子それが覚えられないからって私のこと「あっちー」って呼んでたの。私はちゃんとすぐに覚えて名前で呼んでたっていうのに……ね」
これでどうだ。
涼太君を見ると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
はぁ、やっと気づき始めてくれたんだね。
そしてダメ押しで私は自分のバッグから思い出の品を取り出した。
「でも小学校を卒業する時分になって、私は病気を治すために都会の方へ引っ越さないといけなくなった。その時にその子が「俺が大人になったら必ず会いに行くから。だからそれまで預かってろ!」ってこれをくれたの」
私はそれを涼太君の前に置く。
涼太君はは信じられないって表情でそれを手に取って見ていた。
「でもその子は会いに来てくれなかった。それもそうだよね。私がどこに行ったかなんて彼は知らないんだもの。だから、それっきりだったんだ……昨日までは」
そして私は涼太君の目を見て微笑んだ。
涼太君は完全に気付いたって顔をしている。遅いよ――、もう。
「あっ……ちー?」
そのあだ名が私の耳をくすぐる。
懐かしいな、そう呼ばれるの。
気付いてほしかったんだよ? 涼太君にさ。
でも、やっと届いた。そう思うと、感情が高ぶり、目からそれが零れた。
「ずっと、ずっと会いたかったよ……りょうた君!」
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