去病

解散宣言

第1話 公開の理由

　 お父さんはお母さんを殺したあとに自殺した。

　だけどお父さんほど、お母さんを好きだった人をわたしは知らない。

　お父さんがお母さんを精神的にも物理的にも傷つけているところなんて、わたしからすれば、全く未知の世界だった。

　だからわたしは初めてお父さんの暴力に遭遇しただけに過ぎないのに、それだけでお母さんは勿論のこと、お父さんまで自分の元から消えてしまった。

　だからこそ、わたしは自分という存在が一体、どんなところをルーツにして生まれることになったのかが気にかかる。

　だけどそれがまるで判らない淵に、わたしは追いやられてしまった。

　お父さんの無責任も初めての体験だったが、その劣悪はこの世にいるわたしに取り返しのつかない凄まじさを与えた。

　お父さんとお母さんがなぜ消えてしまったのか、判らない。ふたりには何の確執もなかったからだ。

　それでも、お父さんはわたし宛てに書き物を残していた。ただそれは遺書ではない。ただわたしに遺した嫌がらせのひとつなのかもしれない。

　お父さんの遺した仮初めの遺書は、わたしの魂には難しい。だから公開をして、その真意の解析が出来る人を探したいと思う。

　わたしは今、お父さんとお母さんから疎遠になる道を選ぶ直前に棲んでいる。

　わたしはもうすぐ結婚する。ひとのもの他人のものとなって、ありふれた営みだけに命を点す。

　だからこれは、わたしがお父さんとお母さんを隠蔽する前のささやかな親孝行になるのかもしれない。