第237話 根城6
「残り……43人かよ……アイツに啖呵切っておいて、この様じゃあ、情けねえ」
合流地点である薄暗い自然公園の中で、荒い息を落ち着かせた『浮舟衣』は減った子供の数を数え苦々しく口元を歪ませながら冷えた地面に座り込む。
何度振り回したか分からない量産刃は柄の部分まで奴らの体液が滴り、手袋越しにも不快感を感じながらも苛立ちを押し込むように握り込む。
いや、正直なところ手袋外す余力もない。
最初、一四〇名の子供と『菫』そして『浮舟衣』が駆けた抜けた戦場はそれほどまでに激しく一縷の隙も許さない過酷さが常駐していた。
言うまでもなく『浮舟衣』はどの中央に属していたとしても、強者の部類に入るのだろう。
だがその実力を持ってしても、この戦場では自身の身を守る事で手精一杯だった。
今現在、浮舟衣の目線の先にいる八番隊である桜と紬の合流が、後一分でも遅ければ、今残っている子供の半分はフェイズ3との混戦でやられていたかもしれない。
「守りきれねえとは分かっちゃいたが……そうか、クイーンじゃなくてもここまで手に負えねえもんなのか」
浮舟衣は知っていた。
かつては、多くの精鋭を引き連れ、化け物が駆け巡る戦場を闊歩した彼は『フェイズ3』が如何に恐ろしく狡猾な生き物であるかを嫌というほどに知っていた。
忘れていた訳ではない。
だが、今回に関しては、これまでに『浮舟衣』と共に戦った仲間はおらず、唯一の戦力として頼れるのは東雲八城から任された『菫』ただ一人。
たった二人の戦力で、一四〇名を守りきれる筈もない。
八城と別れた五分後には、二十名の子供が無惨に喰われ、それを助けに行った『菫』の穴を縫うように一体のフェイズ3が部隊の正面から人間をスナック菓子のように蹂躙した。
半数……また半数と減っていき、結局ここまで残ったのは43名。
ただそれでも恐慌に陥らなかったのは『東雲八城』が先日に彼らへ課した『資源調査』が大きかったのだろう。
外を知り、現状を知っていれば多くの仲間が死のうと恐怖に竦んでいる場合ではない事を否応無しに経験する。
この戦場で子供達が化け物に怯え四方に飛び出していたなら、誰一人として生き残る事は出来なかっただろう。
60名を犠牲にした八城の判断は正しかったと『浮舟衣』は今だからこそそう思う。
そして、だからこそ、この現状に歯痒さを感じるのは、東雲八城が背負った60名の死を、『浮舟衣』が守りきれなかった事にこそある。。
浮舟衣は出し惜しみをした訳ではない。
ましてや手を抜いた訳でもなく、自身の持てる十全を出した結果が43名だったというだけだ。
取り繕う為の言い訳も立たない。
そんな思考の中浮舟衣が立ち上がろうとした所に、向こう正面から影を落とす人物に顔を上げる。
「分かっちゃいたが、随分と減ったみたいだな」
その声は今一番聞きたくない、男の声だ。
凛としたとは程遠い、少し疲れた英雄と呼ばれる男。
「……よう、東雲。次ぎ会うときはクイーンを倒した後つう話だったが……おいおい、今の状況は聞いてた話と違うんじゃねえのか?」
桂花を連れた八城が、今しがた斬ってきたばかりという血みどろに濡れた量産刃を仕舞い込みながら、無傷のまま目の前に立っていた。
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