第166話 荒城13
別働隊がてんやわんやしている最中第三班の作戦は始まった。
第三班、示し合わせたその瞬間を知る者は三名。
白百合紬、テル、そして橘時雨。
紬が百番隊の隊員に指示を送り、テルが後方に居る時雨と天竺葵を繋ぐ視界を遮った。
多くの『奴ら』がひしめき合う戦場では一瞬一瞬の判断が状況を左右する。
天竺葵が、危険なテルを引っ張り、量産刃を閃かせテルは斬撃の隙間を搔い潜る。
百番隊が束となり前進しながら、その後ろに天王寺催花を中央に据え、天竺葵そしてテルが中央側部を守り最後尾を時雨が固める……筈だった。
見れば、時雨と天王寺催花は遥か後方、不自然な程その距離は離れている。
「紬さん、二名後方に取り残されてしまっているみたいだけれど」
天竺葵は便宜上遠征作戦指揮を任されている紬へ確認を取る。
だが紬も仲間が後方に取り残されているにも関わらず、その態度は素っ気ない。
ただ一言「了解した」とだけ呟いた。
後方数十メートルにとり残されている時雨から、無線による連絡が入った。
「時雨、何をやっている?」
「すまねえな、随分後ろに取り残されちまった。合流はできそうにねえや、私達に構わず先に進んでくれ。こっちはこっちで、先の合流地点を目指すからよ」
あっけらかんと喋る時雨に、紬は表情一つ動かす事は無い。
「そう、了解した。時雨分かっていると思うけれど、コレは貴方のせい。自分の事は自分でどうにかして」
「ハハッ!手厳しいぜ!だが了解だ!短い間だったが、戦いやすかったぜ隊長さんよ!」
「……私は隊長じゃない」
次第に時雨との距離が遠くなり、無線はその役割を終えたと何も聞こえなくなった。
たった数十メートルの距離だが、『奴ら』が数多く存在するこの道のりは、天王寺催花を連れて進むには遠過ぎる距離である事には間違いない。
「本当に良かったの?天王寺催花と離れてしまったわ」
「時雨なら問題はない。むしろ私達の方が敵に囲まれている。早急にこの場を離れなければならない」
それに関しては天竺葵も同じ考えなのか、首肯し眼前の敵を斬りつける。
時雨は良い仲間だと紬は不思議ながらに思う。
がさつで、面倒見が悪いのに、面倒事を持ってくる。
そのくせ、進む方向も目指す物も同じなのに、紬はその答えに辿り着く事はなかった。
紬は殺そうとして、時雨は……
だからせめて今は仲間が望んだ結果を得るために、紬は自分に言い聞かせる。
使い慣れた銃を構え直し、戦場でその引き金を引き続ける。
「時雨、ありがとう」
紬の小さな呟きは、誰に聞こえる事もなく己が鳴らす銃撃の音に掻き消されたのだった。
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