第165話 荒城12

時雨が部屋を後にして、三十分と掛からない内に全ての人員の班分けが完了した。

大まかな、指標となるのは隊を率いる事が出来る人間かどうか。

その経験がある者かという点である。

第一班は、九十六番隊隊長である遠征隊No.九十六風間麗は自身が率いている隊員をそのままに率いてもらう手筈となった。

九十六隊が進むルートは少し大回りではあるが、中央線沿いを進んでもらい、そのまま立川まで抜けてもらうルートを取る。

規定ルートである為会敵する事なく進める最も安全なルートだ。

次に十七番隊副隊長が率いる第二班。

十七番隊副隊長には、首都高中央道をそのまま前進してもらい、国立府中ICで高速道路を降り、そのまま一直線に7777番街区まで進路を取ってもらう。

そして第三班。紬が率いる第三班は、百番隊との混成チームとなる。

その中には、監査役である天竺葵、テル、時雨と約束どおり天王寺催花が含まれている。

そして、やる気はあるが、自分の班が分からないと右往左往しているのが八城の元へとやってきた。

「隊長?私の名前が入っていないんですけど……」

「桜、お前は俺と一華と一緒に別動隊だ」

「聞いてないですけど……」

「言ってないからな」

「言って下さいよぅ」

「事前に言ってもやる事は変わらないんだ、どうせ同じだろ」

「それは……そうかもしれないですけど」

「ならいいだろ?何も問題ないんだから」

「何かいい様に丸め込まれてる感じもしますけど、隊長の言う事に一応納得しておきます」

別働隊。

元一番隊隊長、遠征隊No.一、野火止一華

八番隊隊長、遠征隊No.八、東雲八城

八番隊隊員、遠征隊No.三百三十三、真壁桜

別働隊は三人のみ。

麗の第一班と十七番隊副隊長率いる第二班は出立した。

最終第三班の紬は、時雨と何かを話し込んだ後、出立した。

作戦参加者内で中央に残っているのは、この三人のみだ。

「じゃあ俺達も行くぞ」

八城と一華は連れ立って歩き出せば、半歩遅れて桜がその後ろに続いて行く。

そして、一時間としない内に桜は後悔する事になる。

街周に設置されているバリケードを超え、三十分も歩けば『奴ら』は現れる。

「隊長!本当にこのルートで行くんですか!」

桜が声を荒げるのも無理は無い。

距離にすれば、別働隊が行くのは最短距離であるが、距離が最短とて最も早く目的地に到達出来るかと聞かれればそれは違う。

「この進路!殆どの道でクイーンに囲まれてますよ!こんなの余りにも危険すぎます!」

「じゃあお前は帰れ、俺と一華だけ行く」

「なんでそうなるんですか!そうじゃなくて!もっと安全な道を通って!」

「それで、時間を掛けて何になる。お前らを守りながら進むならその方がいいのかもしれないが、俺も一華も別に誰に守って貰う必要も無い。お前は違うのか?」

野火止一華は終始ニヤニヤと桜にとって腹立たしい表情を浮かべている。

きっと彼女には八城が何を言いたいとしているか理解出来ている。

そして桜も八城が何を言いたいのか見当が付く。

「違わないですよ!ああ!分かりました!上等です!散歩気分で行ってやりますよ!」

「一華、今の聞いたな?」

「ええ〜バッチリ〜シッカリ〜ガッチリ了解したわ〜当てにはならないけど〜足手まといにもならないってことで〜オケオケ?」

「オケオケだ」

「ええ!オケオケですよ!」

そんな事だから良くなかった。

散歩気分なんて、大言壮語を言うもんじゃないと桜は肝に銘じる事となる。

それは、最初の会敵は出立から一時間後のレインボーブリッジだった。

「隊長!ヤバいです!置いていかないでください!わたしぃ!死んじゃいますよ!」

一華と八城は言葉を交わさずとも連携を取り、最小限の眼前を切り開く。

その隙間に桜がギリギリで滑り込み、身の安全を守っていたが、二人のスピードは今まで見たどの戦場よりも速度の桁が数段違う。

「あらら〜?八城〜話が違うんじゃないかしら〜?足も〜腕も〜引っ張られるなんて〜聞いてないニャン」

「うるさい、お前は喋るな。仕事は黙々とやれ!」

二人が帯刀している三シリーズは使わない。此処で使ってしまえば、最善の状態に戻すまでに三日はかかってしまう為だ。

二人は量産刃を巧み操り、左右から迫る奴らの首を撫で斬っていく。

「隊長!隊長ってば!待って下さい!」

「お前もうるさい。静かに付いてこいよ!集まって来ちゃうだろうが!」

「隊長だって叫んでます!」

「じゃあもう何も言わないから!お前が付いて来れなくても何も言わないから!」

「嘘です!ごめんなさい!少しは後ろを見て!私のペースに合わせて前進しながら労って下さい!それから!一華さんは喋るなって隊長に言われてます!」

「注文が多いわ〜どうかしら八城〜もう彼女も頑張ったみたいだし〜そろそろ楽にしてあげてもいいんじゃないかしら〜」

「出立一時間で頑張ったもクソあるかよ!いいから、お前はもう喋るなよ!」

「隊長〜」

「八城〜」

「お前らちょっと静かにしてくれ!」

騒がしさの中、三人だけの遠征が始まったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る