第26話 凪1

「ようやく帰って来た。緊急召集どうだった?」

紬が夜も遅いというのに出迎えてくれる。

上着を脱ぎながらリビングに進むと、他の三人も起きていた。

奥から、桜、時雨、マリアそして隣で八城を見上げている紬。

八城は紬の頭に脱いだ服を被せる。

「臭い」

紬は文句を言いながらハンガーに掛けている。

「緊急召集。今回は出撃ですか?」

桜は緊張の面持ちで尋ねてくる。

だが八城の返事は拍子抜けをするものだった。

「今回出番はありません。ってか飯ないの?」

「え?出番ないの?やった!」

時雨が紬と手を取り合いながら、普通に喜んでいる。

こんなに喜んでくれるなら会議に言ったかいがあるというものだ。

「え?いやいや!ありえないですよ!私たち八番隊ですよ!一桁なんですよ!」

「でも休みなんだから仕方ないでしょう?ねえ紬?」

八城は空いているソファーに身体を沈める。

「誠に遺憾ではあるけど、休む」

「休み最高!」

八城も気分が上がり過ぎて全員とハイタッチして回っている。

「休み!はい!休み!はい!」

「でも休みなら、皆には畑仕事手伝ってもらうわよ?」

マリアがキッチンから顔を出す。

「手伝う!手伝う!奴ら相手に刀振るより、土相手に鍬振った方がよほど建設的だもんな!紬?」

「え?……そんな話を振られても困る。だってほら……私が使うのは指先。」

紬よ、そんな裏切られた!みたいな顔をされても困る。

「私も、あれなんだよ……宗教上の理由でな。土を弄ることは禁じられててよ」

時雨は拳を握りながら悔しそうな表情だ。

二人はここぞとばかりに、畑に行かない理由を並べ立てていた。

「まあでも、今回はそんな大事じゃなかったってことですよね?」

桜は何にも無かったんですよね?と問いかけてくる。

「大事……ねぇ」

言うべきか、いやあの場所に居た当人に言えば精神的に不安定になるかもしれない。

この作戦に関わらないのなら、最初から言うべきじゃない。

「明日は朝一で畑作業よ〜早く寝た方がいいんじゃないかしら?」

マリアのその一言で紬と時雨は寝室に入っていく。

「では隊長、私も宿舎に戻ります!マリアさん!明日は何時にこちらに来ればよろしいでしょうか?」

もう指示を求めるのが俺ではなくマリアな辺り俺の威厳は地に落ちたと見ていいだろう。

「そうね……朝六時には来てくれるかしら?」

「了解しました!では隊長、マリアさん、おやすみなさい!」

桜は駆け足で宿舎に戻っていく。

ちなみに時雨は新規参入のため宿舎が用意されていないため、教会で寝泊まりしている。

その足音が遠ざかって行くのを聞き届ける。

「八城君、今酷い顔しているわ」

「俺はいつも酷い顔だよ」

八城は出されたお汁粉を一啜りしてこたえる。

「何かあったの?」

「ここはいつも何か起きてるだろ」

噛み切りづらい餅を頬張りながら、数回噛み飲み下す。

「89と同じ顔をしているわ」

「………これ甘過ぎないか?」

八城のごまかすような反応を見て、マリアはニコリと笑う。

「ツインズが戻ってきたのね?」

「ああ」

89作戦時駆り出されたのは、何も遠征隊だけではない。

凍結されている、一番隊も東京中央防衛のために武器を持たされた。

一番隊は一華に付き添って戦っていたために、反乱の意思を疑われ戦闘への参加が禁止されている。

「ごめんなさい。今回も私が出られれば…」

「あんたは、ここで保母さんやってる方が性に合うだろ。それに今回、俺達は出る必要が無い。あんたが気に病む必要はない。だからさっさと寝ろ、明日6時に起きるんだろ?」

「あらら……ありがとう。ごめんなさい、私も疲れちゃったみたい。先に休むわね。」

そう言ってマリアは教会の階段を登っていく。

「ねえ八城君」

マリアは階段で背を向けたまま立ち止まる。

「なんだよ」

「あなたは……いえ。明日八城君には五時には起きてもらおうかしら?」

そのままマリアは寝室へ入っていく。

「え?桜より早くない?」

そう返した八城の言葉は誰にも届かなかった。


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