第8話
*
「ただいまぁ~」
「あ、高志おかえり」
「紗弥、来てたんだね」
高志が家に帰ると、私服姿の紗弥が出迎えた。
紗弥の姿を見た高志は頬を緩ませる。
「どこに行ってたの?」
「ん……まぁ……ちょっとな」
結局高志はあの後お金を受け取らなかった。
理由はただ単純にあんな事でお金を貰いたく無かったからだ。
最後まで金を渡そうとしていきたメイドさんを振り切り、高志は家に帰ってきたのだ。
(はぁ……新しいバイト見つけないとな……)
高志はそんな事を考えながらため息を吐く。
「高志?」
「ん? どうした?」
「いや……ため息付いてるから……大丈夫?」
「あ、あぁ……勉強で少し疲れてるだけだよ」
「そう? 具合悪くない?」
「大丈夫だよ、それよりも部屋に行こう。今日も勉強するでしょ?」
「うん、そのつもり」
高志は紗弥にそう言って、紗弥と共に二階の自分の部屋に向かった。
着替えを済ませ、高志は紗弥と向かいあって勉強を始める。
「えっと……ここは……」
「そこはここの公式を使うの」
「あ、そっか」
「……ねぇ、高志」
「ん? どうした紗弥?」
勉強の途中、突然紗弥が高志の手を握ってきた。
高志はあまり驚く様子も無く、紗弥の方に視線を向けて尋ねる。
「……ちゅーしたい」
「は、はえ!? ど、どどどどうした急に?」
「なんか……したくなっちゃった……ダメ?」
「い、いや……ダメではないが……」
高志は紗弥の言葉に少し困った表情を浮かべる。
最近紗弥は高志に対して積極的だった。
修学旅行から帰ってきてからというもの、こういう感じの事がほぼ毎日ある。
「嫌なら……いい」
「あ、だから嫌って訳じゃ……」
しかも紗弥は高志が少しでも躊躇すると、頬を膨らませてそっぽを向く。
そんな紗弥を見た高志はいつも焦ってしまい、最終的に紗弥の言うとおりにしてしまっていた。
紗弥もこうすれば高志は断れないと言うことを知っているのだろう、毎回同じ反応をする。
「紗弥……こっち向いて」
「……うん」
別に高志は嫌な訳では無い。
嫌な訳ではないが、あまり紗弥の甘えを許しているのもどうかと思い始めていた。
重ねた唇を離し、高志は座り直して改めて勉強を始める。
「ごめんね、いつも私のわがまま聞いてもらって……」
「大丈夫だよ、でも少しは……」
「そういう高志が大好きだよ」
「………」
毎回同じような事を考える高志であったが、この紗弥からの最後の一言によって、毎回「まぁ良いか……」となってしまう。
*
高志が帰った後、瑞稀は本を読みながら今日の事を考えていた。
「……今までにあんな人は居なかった……」
考えているのは高志の事だった。
今まで何人もの人が同じように来たが、あんな事を言った人は高志が始めてだった。
「……お金も受け取らないなんて」
高志の事を後でこっそり仲の良いメイドに聞いた瑞稀。
メイドの話しではバイト代も貰わずにそのまま帰ったとの事だった。
「変な人……」
瑞稀はそんな事を考えながら、読んでいた本を閉じる。
『秀清さん……あの……お、俺と友達になろう!』
そう言った高志の言葉が瑞稀は忘れられなかった。
「友達……」
『……友達に会うのにお金なんて必要ないから』
「………今度は……いつ来てくれるのでしょうか」
いままでの人は一度来たきりで二度と姿を見せなかった。
しかし、今回の高志は今までの人とは何かが違うと瑞稀は感じていた。
「お嬢様、お薬のお時間です」
「分かりました」
瑞稀がそんな事を考えていると、部屋の扉が開きメイドさんが薬と水を持ってやってきた。
「……毎日同じ事の繰り返し」
そんな事を考えながら、瑞稀は薬を水で流し込む。 こんな生活を高志が変えてくれるのだろうかと考えながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます